杉江松恋不善閑居 京成八幡「山本書店」と玉川太福月例独演会

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某月某日

今抱えている仕事。レギュラー原稿×1。イレギュラー原稿×2(エッセイ、評論)、ProjectTY書き下ろし。

やらなければならないこと。主催する会の準備×1。

午前中に奮起してProjectTY書き下ろしの残り1章を終わらせ、編集者に送ってしまう。まだ取材した箇所のリライトがあり、インタビューを反映できていないので脱稿とはいえない。この週のうちに残り原稿は一応送ると約束していたので、編集者への義理は果たしたことになる。週末にリライトをやろうっと。

午後から出かけて都内をあちこち回る。今やっていることについてのヒアリングなので、どうしても対面で話す必要があった。思い切り西に行ってそこから今度は東へ。気が付いたらなぜか京成八幡・山本書店に来ていた。時間が合わなくて訪問できていなかったお店だ。JR本八幡駅から北上していくと、古書買入と書かれた看板が見えてくる。この瞬間に胸がときめく。「古書」だと思っていたら「古着」だったりすることがときどきあるので油断はできないのである。近くまで来て、店頭に置かれた全集揃いの豊富さ、安さに驚く。まあ、安くしているから店頭に出しているのだろうが、それでもこの品ぞろえは素晴らしすぎる。

中に入ると、右側に帳場がある。中に三本並列で棚があってあとは壁際という配置。いちばん右の通路は壁際の手前が関東の郷土史で始まり、奥に行くと中国・東アジア本。その充実ぶりたるや。店の花形は間違いなくこの棚だろう。向き合ってあるのが歴史棚。その裏にも民俗学などの人文科学書。中央に文庫棚だが、新書や四六判で渋い日本人作家の小説が置かれているので油断ならない。いちばん左の棚は右側が新書で裏がサブカルチャー。といってもかなり昭和の香りする品ぞろえで、週刊ファイト編集長井上義啓が寛水流創始者・水谷征夫を主人公として書いた実名バイオレンス小説『やさぐれ必殺拳』を発見した。小説としては井上編集長の脳内世界をそのまま書いたような内容でどうかと思うのだが、アントニオ猪木や新間寿が命のやりとりの目撃者として実名で登場するのでおもしろい。これは買い。

左の壁際は手前が落語などの古典芸能で、そこから演劇などの芸術系、奥にも音楽や美術などの棚が並ぶ。おもしろいのは大衆芸能や歌舞伎、能を峻別して置いてあることで、別々の場所で発見があったりして油断がならない。音楽の棚で『デカンショ節考』を発見。音楽家の前川澄夫が郷里である丹波篠山の民謡について調査した結果をまとめた私家版の本だ。これも買うだろう。デカンショ節について詳しくなるだろう。

店を出て京成八幡駅に向かおうとして衝撃の事実を知る。店の外右側に道に面した棚があり、ここにも見落とせない本が山と並んでいるのだ。おお、こっちを先に見るべきだった、そろそろ時間がなくなってきたので焦って一応棚を確認して駅へ。次に来た時は絶対に外から見よう。

京成線で浅草まで。玉川太福独演会である。本日は三遊亭萬橘さんがゲストで、満席になっていた。後方にまた『浪曲は蘇る』販売ブースを置かせてもらっており、編集者Y元と一緒に座る。

デロレン漫談 玉川太福

江藤新平と芸者鯉 東家三可子・玉川みね子

サカナ手本忠臣蔵サンゴの廊下 玉川太福・玉川鈴

マイク・タイソン物語 三遊亭萬橘

祐天吉松 玉川太福

祐天吉松は玉川お家芸の一つだが、太福さんは吉松が生き別れた息子と会う場面をケレン味たっぷりに演じる。それによって泣かせと笑いが交互に訪れ、緊張と緩和の心地よいテンポが味わえるのである。茶屋のばばあが会話にちょくちょく介入してくるのは、「子別れ」の立川志らく演出に似ていて落語の呼吸だ。これは武器になるからもっとやってもいいんじゃないかと思う。マイク・タイソン物語は地噺というか漫談というか、館内を爆笑の渦に巻き込んだ。自虐的な語りと見せて周到な計算で、お見事であった。

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