杉江松恋不善閑居 旧聞・神宮丸太町「古書HERRING」

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某月某日

今抱えている仕事。レギュラー原稿×4。イレギュラー原稿×2(エッセイ、評論)、ProjectTY書き下ろし、ProjectTH書き下ろし。

やらなければならないこと。主催する会の準備×1。

レギュラー原稿を一つだけ片付け、あとは仕事読書に徹する。夜は池袋コミュニティカレッジ講師。

再び先年の関西行について。今回は洛東を中心に回るつもりだったが、スマートフォンの充電池がかなり疲弊して電源供給が続かなくなっているので、事前に行程図を書いてきていた。グーグルマップをそうたびたび表示させるわけにいかないからだ。河原町で三密堂書店を訪れたあとは、鴨川べりに下りて河畔を散策しながら三条大橋まで歩く。鴨川の東側、四条と三条の間にも古本屋があるようなのだが、時間が早くてまだ開いていない。今回は残念ながらパスである。三条大橋のたもとに、地元団体が寄贈した弥次喜多の像がある。藤田香織氏と共著『東海道でしょう!』のゴールになった場所だ。京都府は全般的に東海道に冷たい。観光資源は唸るほどあるし、お上りはんの通り道など知らんどすえ、ということであろう。東海道の終点なのだから何か公式の記念碑などあってもいいのではないかと思うが、何もなかったらしい。なので民間団体が寄贈したのだ。そういえば京都~大阪間の三次も歩かなければならないのに、コロナのせいで止まってしまっている。

そこから川端通りを北上し、二条通りを東へ。新車屋町で中井書房が営業中のはず、なのだが閉まっている。どうやら臨時休業らしい。予約して来ているわけではないのだから仕方ない。諦めてどんどん歩き、岡崎公園を抜けきったところで左折して北上、平安神宮の東側に古書HERRINGがある。

一般民家にそのまま本棚を詰め込んだお店で、道路際の境界にまで本の棚があふれ出している。なんとも魅力的な外見で、京都に来たらここともう二軒だけ行ければもう大願成就、と思っていた。店の中には靴を脱いで上がる。入ってすぐの間は回の字を描くように書棚が置かれ、映画などの芸術・芸能や戦前のものを含む文学書が中心で、早くもこのあたりでお腹いっぱい感が出てくる。いや、これは食べ放題に行って前菜だけで満腹するようなものだ。その部屋の右奥に長い部屋があり、ここは人文科学書が中心。鴨居などにも棚がこしらえてあり、とにかく置ける空間にはすべて本がある。ストーブの前で店主が読書だか帳簿づけをしている。白髪を後で縛って、細面の顔に顎髭、どてら姿という外見は時代劇だったら絶対古本屋の裏で仕置人とかしている設定だと思う。店主の向こう側の棚も気になるな、と思っていたら、すっと動いてどこかに行ってしまわれた。助かる。が、棚の向こうに回りこまれて背後から仕置されたりして。ここで探していた申在孝『パンソリ』(東洋文庫)を発見する。

その部屋からさらに奥がある。背の高い棚で仕切られており、縦棒がとても長いUの字になっていて、美術書や仏教書など丈の大きい本なども並ぶ。アート関連が好きな人だったら一日ここから出られなくなりそうだ。伝統芸能関連でかなり気になるものがあったが、旅先なので断念する。今度京都に来たときには買ってしまうかもしれない。結局『パンソリ』のみを購入して表に出た。店にいる間に近所の方がやってきて、このごろ無責任な人が散歩中犬に糞をさせるので困るがどうにかならないか、という相談に応えていた。仕置人だが表の顔の人づきあいはいい方なのかもしれない。

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