某月某日
今抱えている仕事。レギュラー原稿×3。イレギュラー原稿×2(エッセイ、評論)、ProjectTY書き下ろし、ProjectTH書き下ろし。
やらなければならないこと。主催する会の準備×1。
レギュラー原稿が1本だけ書けた。あとは延々と仕事読書。外出もしなかったので、前日より行動は劣化している。
昨年の京都行の続き。古書HERRRINGから北上し、丸太町通りを東へ進む。歩きながら、既視感を覚えるが洛東のこのあたりにくるのはごく久しぶりなので、いつのものかはわからない。やがて道の右側にマキムラ書店が現れる。いかにも古本屋という店構えで、覗き込めば全集本のたぐいが山と積み上がっているのが見える。店内に入ってみたが、やはり全集の山脈が主で、バラの本には手が出なかった。向かって左のゾーンは本で埋め尽くされており、足を踏み入れることができず。歯が立たなかったことに敬意を表して引き上げる。
出てみて腑に落ちないのは、ここに来るまでの道筋にもう一軒古本屋があるはずだということで、見落としたか、あるいは開いていなかったか。電池を気にしながらグーグルマップを起動してみると、何百メートルか東にやはりあるではないか。どうやらこちらがうっかりしていたらしい、急ぎ足で戻ってみるとたしかにあった。創造社書店である。看板のない店だから気づかなかったのだ。こちらはぱっと見るとなんの店かわからない風情で、覗くと中央の棚で二分された典型的な古本屋である。なぜか左のゾーンに自転車が置いてある。入ってみた。音を聞きつけて、奥から品のいい女性が出てきて帳場に座った。
品揃えは比較的軽めで、昭和の日本ミステリー新書などがけっこう多い。棚を見ながら再び既視感がこみあげてくる。ここはもしや、京都大学を受験した折帰りに寄って、ルネ・レウヴァン『そそっかしい暗殺者』を購入した店ではないだろうか。向かって右奥の棚で本を発見した記憶があるのだが、と進んでみるとそのあたりにアガサ・クリスティーのハヤカワ・ミステリがある。しかしずっと棚の配置が同じということもあるまい。あのとき帳場にいたのは男性だった気がする。ここは曖昧なままにしておくのもいいだろう。山口瞳を一冊購入して、外に出た。まだまだ先は長い。
川端通りまで歩き、神宮丸太町で京阪本線に乗る。急行ばかりでちっとも各駅停車が来ない。一駅乗るだけだから歩いたらよかったか、と思っているとようやく待っていた電車が到着する。乗って、出町柳で下車。
ここからが後半戦である。今出川通りを東に向かって歩いていく。出版社の臨川書店の前を通りかかった。ここは店頭でワゴンセールをやっていることがあると聞いたが、残念ながらお休みだ。どんどん歩いていき、鞠小路通りを右に折れて少しだけ南下、道の左側に冨山房書店がある。よし、営業中だ。
店頭のショーウィンドウに背を向けて置いてある本の中に、自分でも持っている古典芸能関係の稀覯本がある。これは期待ができそうだ。中に入ると、すぐ左が帳場で女性の店主に挨拶される。帳場の奥には和本が積まれている。ここは歌舞伎と能に強い店だ。同じ芸能でも落語とか講談ではないところがいかにも京都である。8の字を斜めにしたような造りになっていて、下の丸のほうに能関係の本がぎっしりとある。部屋の中央に背の低い棚があって、そこは私でも歯が立つ本が置かれているので薄めの中公文庫を何冊か拾う。なんとか無駄足にならずに済んだ、と安心して帳場へ。できればどんと胸のすくような本を拾いたかったのだが、そうもいかない。相手が上級者で、ほどよくあしらわれたようなものである。そこはかとない敗北感を覚えながら外に出る。