今抱えている仕事。レギュラー原稿×5、イレギュラー原稿×1(評論×1)。やらなければならないこと。の・ようなものの準備×1。ProjectMH×1。
(承前)
空振りに終わったあづさ書房から戻って、熊本駅に到着した。ここから市電に乗り、熊本城・市役所前の電停まで行く。とにかく市内にいると市電にばかり乗ることになるのだ。目指す場所は、昨日と同じ一帯である。舒文堂河島書店にも念のため立ち寄って、その斜め前にある古書汽水社へ。前日はお休みだったのである。
古書汽水社はこの通りでは比較的新しい店であるらしい。入ってみるとそのたたずまいに何か懐かしいものを感じる。舒文堂河島書店や天野屋書店も、旅先で巡り会えれば必ず、ここに来てよかった、と感じるような古本屋だが、古書汽水社も同様。違いがあるとすれば、前者は伝統的というか、郷土資料の扱い一つ見てもその街で長く続いているという気配が感じられる。それに対して古書汽水社は、自らの個性を武器にして勝負している古本屋だ。入って正面に夏場社の本がずらっと並ぶ棚がある。建物で言えばエントランスに飾られた額のようなものだから、それで店の性格というものがわかる。棚は中央にサブカルチャー色の強い島があり、右側に内外の文学、中央に芸能なども含む趣味の本、左側にはジャンク色の強い本といった布陣で本が並べられている。プロレス・格闘のコーナーを見るとI編集長こと故・井上義啓の著書や佐山サトルがUWF時代に出したシューティングの本などがある。そういうところの押さえ方がつまり個性なのである。
右の壁際にはやはり郷土資料系や人文科学書が並び、左の壁にはコミックからタレント本まで柔らかめのものが。つまりは右から左にかけて硬軟のグラデーションを描くような感じなのである。さらに奥の一体はCDやレコードの島になっている。これも店の個性だ。
さきほどの佐山サトル本と、左の壁際から歌手の山田太郎の本を購入することにした。山田太郎の父親は浪曲興行を手がけた新栄プロダクション創業者の西川幸司であり、その業績を描いた本である。酒井雲坊こと村田英雄を世に出したのもこの人だ。第一章は特に浪曲資料として価値がある。帳場に持っていき、お勘定をした。
後で知ったのだが、古書汽水社の店主にはなんとなく素性がバレていたらしく、声をかけそびれました、と後でツイッターで教えていただいた。実は西荻窪の音羽館でも修業をされていたとのことで、おそらくはその時代にお見掛けしているのではないかと思う。ここもいい古本屋だった。(つづく)