4月20日は立川談慶独演会「談慶の意見だ ♯20」のお手伝いに。この会は私と談慶さんが同じ出身校であることからお願いして始まったもので、落語三席の他に絵手紙漫談、ゲストを招いてのトークと、盛りだくさんの内容である。昨日のゲストは遠藤光男さん。前にも書いたが、このお名前を聞いて第一に反応する人は四十代後半以上のプロレスファンだろう。国際プロレスのマットで1978年から団体崩壊までの3年間、メインレフェリーとして試合を裁いてこられた方である。この日ばかりは私も会の主催者ではなくて一ファンとして参加させてもらった。普段はあまりしないのだけど、記念写真もおねだりしてみたり。
遠藤さんのトークは仲入り前で、黎明期の日本ボディビル界がどのようになっていたか、というようなお話から始まり、遠藤さんが独自に編み出した鍛錬法のあれこれに話が及んだ。もちろん国際プロレス時代のお話もたっぷり。特にアンドレ・ザ・ジャイアントとの交友については、あまりプロレスに馴染みのない一般のお客さんも興味深げに聞いておられた。
途中、檀上の談慶さんから話を振られた。
「会場のお客さんも遠藤さんに何かお聞きしたいんじゃないですか。杉江さん、いかがです?」
「さきほど、プロレスラーに悪い人はいないというお話があったのですが」
「そうですね。悪い人はいないですよ」
「ただ、酒癖の悪い人、というのはいたんじゃないかと思うのです。『実録・国際プロレス』を拝読しましたが、グレート草津さんと揉めたことがおありだったとか」
やや強引に水を向けて、故・グレート草津氏との一件について伺ってしまった。内容自体は本で読んでいたのだが、ご本人から直接お聴きするとまた楽しさも一入である。遠藤さんは錦糸町のジムで現在も指導に当たっておられるので、関心がある方はいっぺんビジターで体験されてみることをお勧めする。
この日の演目は以下の通り。
一、絵手紙漫談
一、山号寺号
一、花見酒
一、トーク
中入り
一、百年目
「山号寺号」は、「噺にはとんとん落ちというものがありまして」と枕で例を示してからの一席。上下のやりとりのリズムで観客を落ちまで連れていくタイプのネタなので、そうやって「ぼうっとしていると噺の行く先を見失いますよ」とさりげなく注意しているのだろう。談慶版「山号寺号」は一八の答えにだんだん若旦那がハードルを上げていく、という展開を強調し、あえてやりとりを単純化してリズムに乗りやすくしている。落ちもオリジナルだ。
「花見酒」は、落ちを綺麗に演じることに注力しての高座だった。「壺算」などと同様、落語ならではの変な理屈でお客を煙に巻くタイプの噺で、落ちの出来次第で噺の印象が左右されるのである。途中がいくら受けても、落ちが決まらなければ後で振り返ったときに出来が悪かったように感じられてしまう。その点、今回は綺麗に落ちた。花見の情景などあっさりと演じたことにより、効果が上がったように思う。
「百年目」は桂米朝の十八番でもある大ネタだ。前半二席が単純なやりとりの噺だったのは、おそらく後半がズシリと重いがゆえの配慮ではないか。そのおかげか、胃もたれせずに聴くことができた。談慶演じる番頭は、元は焼き芋売りでこき使われていたという設定で、旦那に自身の悪行が見つかり、くびになるかと怯えるところで「芋売りの稽古でもしとくか」といちいち売り声を練習するのが可笑しい。また、途中で悪夢を見て、昨日まではこき使っていた小僧たちから石を投げられ、うなされる展開は談慶落語でよく行われる、作中作の演出だ。旦那も世慣れて説教にも味があり、よい高座でありました。
次回は6月1日(金)の予定。もしお時間があれば、ぜひお越しを。