杉江松恋不善閑居 ふと、モンキー・パンチ先生のことを思い出した

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某月某日

選挙に行く以外は外出せず、粛々と仕事を続ける。午後6時より、マライ・メントラインさんと芥川・直木賞予想対談。今回はマライさんの比喩を多用した表現が絶妙で、途中で何度も笑った。たぶん来週頭には公開予定である。

仕事の合間に、気分転換で名刺入れをちょこちょこ整理する。30年近くこの仕事を続けていると、やはり名刺も溜まるものである。中にはすでに退職していると思われる方のものもあり、それは廃棄して場所を作る。中には鬼籍に入られた方もある。これも処分してしまうのだが、どうしても捨てきれない名刺があった。モンキー・パンチ先生と、中島らもさんの名刺だ。特にモンキー・パンチ先生は、もう一度でもいいからお会いしたかった。

モンキー・パンチ先生には二度お目にかかった。どちらも取材で、佐倉市の仕事場であった。最初のときは、駅でタクシーに乗ってモンキー・パンチ先生の家へ、と伝えたところ運転手が「ああ、パチンコの」と答えたのでむかっ腹が立った。パチンコの前にアニメで、そもそも漫画だろうが、と言いたいところをぐっと我慢したのである。

二度目のときにも同じ場所でお会いしたのだが、仕事場の様子を見ていてなんとなく違和感があった。聞けば、前回のインタビューのあとでいったん都内に引っ越したが、また元の家に戻ったのだという。都内の部屋はホームシアターを置けず、映画を大画面で見ることができないので嫌になったのだそうだ。私はあまりサインをもらわないのだが、このときだけは我慢できず、色紙を持参した。目の前でルパンをすらすらと描いてくださった喜びよ。今でも大切にしまってある。

最初の訪問だったか二度目だったかは忘れてしまったが、先生に新作品の構想を伺ったことがある。亡くなられてしまったので、もう書いてしまってもいいだろう。老境を迎えた明智小五郎と小林少年が、超高層マンションに住んでいる。同じマンションの同じ階にやはり老いた怪人二十面相が住んでいて、彼は明智と小林の存在を知っている。探偵側は知らないのである。それを利用して、二十面相が次々にマンション内で奇怪な事件を起こし、明智がそれを推理する、という内容だった。閉鎖的な環境内で起きる事件を描いた連作ということでおもしろく感じたのだが、結局漫画としてはお描きになられなかったのではないか。あのときどこかに企画を持ち込むお手伝いをすべきだった。

その訪問の際にはさまざまなことを伺った。『ルパン8世』がフランスで制作されることになって招待され、行きたくはなかったがモーリス・ルブランの生地を見たくて渡航した話だとか。モンキー・パンチ先生はいちはやくデジタル化に着手した方で、そのために最新の作画方法を学ばれた。千葉県佐倉市から東京都八王子市にある東京工科大学に通われ、修士号を取得されたのだ。66歳の挑戦に頭が下がる。自分もまだまだ怠けてはいられない。名刺を眺めているうちに、その思いが湧き上がってきた。仕事をしよう。勉強もしよう。

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