夕刻から出かけて下北沢の北沢八幡宮で立川談四楼さんの北沢独演会。ゲストがいつもアートスペース兜座の独演会でお世話になっている木村勝千代さんなのである。曲師は広沢美舟さん。終戦記念日ということで戦争の話を、とリクエストがあり「真黒なおべんとう」とネタも決まった。これは行くしかないだろう。
少し早めに着いて、勝千代さんと一緒にテーブルのチェックをする。起用に浪曲用のテーブルがこしらえてあって関心した。
演目は以下の通り。
転失気 立川公四楼
初天神 立川談声
ぼんぼん唄 立川談四楼
中入り
真黒なおべんとう 木村勝千代・広沢美舟
一回こっくり 立川談四楼
すべてこどもの話になっていたのは故意か偶然か。一回こっくりはこの北沢独演会でも八月にしか掛からないネタで、子供を水難事故で喪った夫婦の哀しみが描かれる、しみじみとしたいい噺だ。この噺が成立した経緯と、弟さんが早逝した哀しみを軸にした談四楼さんの家族についての回想とが並行して進んでいく『一回こっくり』は名著だと思う。新潮社から単行本で出たままになっているが、あれはどこかで復刊してもらえないだろうか。終演後は近所で軽く打ち上げ。
会場でお会いしたAさんと雑談していてその話になったのだが、なんでも新しく始めることは2年間は続けないと意味がないな、と思う。泥沼にはまる前の早期撤退は戦術的には正しいのだが、じゃあ初めからそんなことに手をつけるな、という話である。何かを始めるためには周囲の力を借りなければどうしようもない。ということはいったん始めたことを辞めるときには迷惑がかかるのである。それがわかっていれば、2年はその場で辛抱しないと申し訳が立たないと思うのではないか。やるといったら黙って2年。それが無理なら初めから手をつけない。
かつて私は談四楼さんと深夜寄席という企画をやっていた時期があった。本当の深夜寄席と謳い、終電が行ってしまった時刻から始めて始発が動き出したころに打ち上げをお開きにするのである。10回開催したところで会をおしまいにしてもよかったのだが、もう少し続けましょうという話になって20回以上重ねた。私が言い出したのか、談四楼さんなのかは記憶が定かではない。談四楼さんは枕などで話すとき「10回ではやったことになりません。もう一周しないと意味がない」と私が主張した、と言われる。そうかもしれない。2周するまで辛抱する、というのがこういうものの基本だと確かに私は思っているのである。