杉江 松恋
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芸人本書く派列伝returns vol.3 瀧口雅仁『落語の達人』(続)
前回に続いて瀧口雅仁『落語の達人』(彩流社)の話である。先に書いておくとこの本、平成に入ってから立川談志が死ぬまで、つまり23年分の物故した落語家の名鑑が巻末に付いている。点鬼簿としても資料価値があるので、そういうものに関心がある人は買ったほうがいい。 このあいだも書いたとおり、本書の第一章は立川談志の兄弟弟子で夭折した、新作落語家の五代目柳家...
芸人本書く派列伝returns vol.2 瀧口雅仁『落語の達人』
前回はやや個人史めいたことに触れ、その流れで石井徹也編『十代目金原亭馬生 噺と酒と江戸の粋』(小学館)を採り上げた。先代の馬生は、1968年生まれの私にとって「一足違いで間に合わなかった」落語家である。十代目の生の高座に間に合っていないという事実が、私の中では一つの節目になっているのだ。音源やビデオだけで知る馬生はなんとも気持ちのいい芸の持ち主であり...
杉江松恋不善閑居 第160回芥川・直木賞の夜
「あなたはまだ本を増やそうというわけ」 呆れたように豊崎由美さんに言われた。 まあ、見るだけ、見るだけ。 昨日、1月16日には第160回芥川賞・直木賞選考会があった。 最近の恒例として、下北沢B&Bでライブビューイングのイベントがある。井上トシユキ・栗原裕一郎・荻野ペリー三氏が出演される生中継があるが、それをお客さんと...
芸人本書く派列伝returns vol.1 石井徹也編『十代目金原亭馬生 噺と酒と江戸の粋』
というわけで今回からタイトルが少しだけ変わった。現在も「水道橋博士のメルマ旬報」で続いている「芸人本書く派列伝」連載についてバックナンバーをご紹介していく。最初の何回かは続きものになっているので連日の更新でご披露するが、後は週一回程度の連載になる予定である。気長におつきあいください。 ================== 「水道橋博士のメ...
芸人本書く列伝classic vol.52(終) 広瀬和生『「落語家」という生き方』
この回で「水道橋博士のメルマ旬報」に「マツコイ・デラックス」というタイトルで連載されていた私の原稿は終わりになる。「メルマ旬報」がそれまでの月2回発行から本当の旬報化、すなわち月3回発行に変わった。それに伴い、原稿も月1回ペースで行くことになり、現行の「芸人本書く派列伝」というタイトルに変更されたのである。しばらく前に気づいてそのまま放置していたが、実は「芸...
芸人本書く列伝classic vol.51 声優の演じる落語と雲田はるこ『昭和元禄落語心中』
立川志ら乃という落語家がいる。落語立川流の真打で、志らく門下である。談志家元存命中に立川こしらと共に昇進を果たした。談志の生前では孫弟子で真打に昇進したのはこの二人だけだ。 こしらは突然落語家休業宣言をして伊豆で農業を始めたり、突然復帰したり、ingressを題材にした落語をやってその筋のファンを喜ばせたり、と行動が読めないのだが、志ら乃も一筋...
芸人本書く列伝classic vol.50 立川吉笑『現在落語論』
立川吉笑『現在落語論』(毎日新聞出版)は、一言で表すなら「完璧」である。 落語論として完璧である。何が完璧なのかと言えば、現状分析である。吉笑の大師匠に当たる立川談志は「現状分析の出来ない者のことを馬鹿と呼ぶ」と定義したが、その伝で言えば吉笑はこの一冊で己が馬鹿ではないことを証明して見せた。自分の立つ位置の観察・分析が完全に出来ている。 ...
芸人本書く列伝classic vol.49 篠原信一『規格外』
この本が届いたその日あたりに、韓国大巨人ことチェ・ホンマンに詐欺容疑で逮捕状が出された、というネットニュースを見た。これ、シンクロニシティ?(それにしても、あの件はどうなったのだろうか)。 今回ご紹介したいのは、篠原信一『規格外』(幻冬舎)である。芸人本書評のコーナーなのに元柔道銀メダリストでカテゴリーエラーもいいところかとは思うが、緑...
街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年1月・大岡山「六畳ブック」自由が丘「東京書房」祐天寺「北上書房」ほか
年末年始は食事制限が甘くなるので、体についた余分な肉を落とすべく、なるべく歩き回っていた。歩いても燃やせる脂肪はわずかで、食べるほうを減らさないとどうにもならないのだけど。 所用があり、家を出たところで、はてどこに行くべきか、と考えた。最近あまり歩いていない付近に足を延ばしたい。となると、横浜の白楽付近か。それとも、もう少し近場を攻めるか。考慮...
芸人本書く列伝classic vol.48 嘉門タツオ『熱中ラジオ 丘の上の綺羅星』
今、死ぬほどむかつきながら一冊の本を読み終えた。 死ぬほどむかついている。しかし非常におもしろい。敢えて言うならむかおもしろい。 嘉門達夫『丘の上の綺羅星』(幻冬舎)がその本である(ハルキ文庫収録にあたり現行題名に。また著者名も現在は嘉門タツオだが原文はママとする)。 今回に限り先にご注意申し上げておく。嘉門達夫ファンが読んだら逆に...