杉江 松恋
一覧
街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年1月・沼津「平松書店」小田原「高野書店」
5-4=1 さあ、どうしよう。 冬季の青春18きっぷである。五回分のうち、一つはいわき行で使った。残る四回は仙台行の往復を杉江松恋・若林踏の二人分で、というつもりだったのである。ところが前の記事でも書いたように、若林氏が仙台行の復路を放棄したため、一回分が浮いてしまったのだ。 使用期限は一月十日まで。 そして、今日がその一月十日であ...
芸人本書く列伝classic vol.47 井上二郎『芸人生活』
又吉直樹『火花』(文藝春秋)がついに200万部を突破し、作品が全文掲載された『文藝春秋』の当該号も105万部を刷ったという。過去の最大部数は綿矢りさと金原ひとみの芥川賞受賞作が掲載された号で118万部だったそうだから、それに告ぐ数字だ。間違いなく『火花』は2015年最大のヒット作と言えるだろう。 芸人が書いた作品であり、芸人のことを書いた小説な...
街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年1月・石巻「石ノ森萬画館」と仙台「昭文堂書店」
「若林君、今から帰ると僕は二十三時くらいに家に着きますよ。君の場合は何時になるか教えてほしいかい」 「いいですよ。だいたい見当がつきますから。まあ、飲み過ぎて終電コースというところじゃないですか」 「だよねえ。ちなみにさ、それは昨日と同じで東北本線で帰った場合だよ。もし福島で常磐線に乗り換えたとするとだねえ」 「なんでわざわざ常磐線...
街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年1月・仙台「萬葉堂書店鈎取店」
青春18きっぷが使える時期になると、それを使っていずこかに遠出をするのが恒例になってきた。夏は関東と東海を巡ったので、次は北へ行くのである。 年末年始の書評家などは暇なものだ。十二月下旬に配本される書籍というのは少なく、ということは主だった仕事は上旬には終わってしまうわけである。青春18きっぷを使える期間は十二月十日からだから、これは自分のため...
芸人本書く列伝classic vol.46 新倉典生『正楽三代 寄席紙切り百年』
寄席に行くと15~20分の持ち時間をもらってさまざまな芸人が出てくる。落語家以外の芸人を色物と呼ぶが、その色物と落語家が上手い具合に配置されて登場する。必ず決まっているのは膝代わりだ。中入り後に最初に出てくるのが「喰い付き」、その後一人「膝前」を挟んだりなかったりもするが「トリ」を務める落語家の前に登場するのが「膝代わり」の芸人だ。ここは必ず色物の芸...
芸人本書く列伝classic vol.45 藤原周壱『前座失格!?』
すべての人間が夢を叶えられるわけではない。 天に輝く星があれば、その高さから墜ちた流れ星の数はもっとある。 さらに言えば、星の高さまで届くこともなく燃え尽きた者の数はその数十倍にも達するだろう。 芸人本の中にはそうした「星に届かなかった者たち」が自らの人生について綴ったものも多く存在する。実名を出して恐縮だが、秋山見学者『たけしード...
芸人本書く列伝classic vol.44 三田完『あしたのこころだ 小沢昭一的風景を巡る』
初めてその番組を聴いたのは床屋だったと記憶している。 時刻は夕方。床屋の待合席には普段買ってない週刊漫画誌が置いてあったので、込んでいるのをこれ幸いと座りこみ、順番になって呼ばれないように、と祈りながらそれを読んだ。当然ながら自分の番が来たときにはすでに外が陰り始めており、夕暮れ時の空を床屋の鏡の中で眺めながら髪を刈られた。 そのとき、不...
芸人本書く列伝classic vol.43 本坊元児『プロレタリア芸人』
またもや休載が続いたあとの原稿らしい。その間の記憶があまりないので詳しくは書けない。 =========================== 二ヶ月のご無沙汰でした(宮田輝の声色で)。 いや、四号も休載してしまい、申し訳ありませんでした。その間、芸人本をまったく読んでいなかったわけではないのですが、なかなかタイミングが合わず。そのう...
芸人本書く列伝classic vo.42 三遊亭圓歌『三遊亭圓歌ひとり語り 全部ウソ。』
私と同じぐらいの世代で、十代のときに寄席出入りをしていた人は、三遊亭あす歌という音曲師のことを懐かしく思い出すことがあるはずだ。 こんな小汚い小屋(失礼)に、なんであなたのような人が! と驚いてしまうほどの、はっとするほどの美人で、三味線を抱えて座ったところになんとも色気があったものである。高座に出てくるとあす歌は、俗謡を一つ唄ってみせたあとで...
芸人本書く列伝classic vo.41 立川談幸『談志狂時代 落語家談幸七番勝負』『談志狂時代2 師匠のお言葉』『談志の忘れもの 落語立川流噺』
2014年12月6日、twitterに一つのツイートが投じられた。落語立川流の古参・立川左談次(2018年死去)が以下のような発言をしていたのだ。 「立川談幸一門(吉幸・幸之進)が本年末をもって立川流退会、芸協入り決定! 因みに私は静かに円満に理事辞任を了承されております(笑)。」 立川談幸が弟子2名と共に...