書評
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杉江松恋不善閑居 第40回小説推理新人賞選考座談会
「小説推理」8月号を読む。お目当ては第40回「小説推理新人賞」選考座談会である。 この賞は毎回最終候補作それぞれについての選考委員の講評があり、どの作品を受賞作にするかというところまで座談会の模様をすべて収録している。小説家志望者には非常に勉強になる内容のはずである。特に選考委員が桜木紫乃、朱川湊人、東山彰良の三氏になっての前回は読みごたえがあった。結...
杉江の読書 岡本和明『小せんとおとき』(角川書店)
「あたしゃねえ、はなしを卸す問屋だよ。三銭でおろしてあげるから、お前さんたちは、そいつを五銭で売るように勉強するんだよ。モトは取れるから……」(古今亭志ん生『びんぼう自慢』) 初代柳家小せんは1883(明治16)年生まれ。父もやはり落語家で、四代目七昇亭花山文から二代目三遊亭萬橘を襲名した。小せんは二ツ目時代に第一次落語研究会に登用されるなど早くから...
小説の問題「風に舞った花びらが水面をうがつように」中島たい子と益田ミリと佐藤正午
「問題小説」(徳間書店)連載のBOOKSTAGEページから旧稿を発掘する「小説の問題」、今回は2008年3月号だ。 連載でマンガを扱うことは珍しかったのだが、この回では益田ミリの『結婚しなくていいですか。』を扱っている。4コマを連ねることによって長篇の話になるという作品で、人物の感情描写に関心を持って、この技巧を文章で説明できないか、と考えたのが出発...
杉江の読書 早坂吝『アリス・ザ・ワンダーキラー』(光文社)
表紙を見て、あ、島風、と思ったが違いました。ウサギである。 早坂吝『アリス・ザ・ワンダーキラー』は、第50回メフィスト賞を獲得した『○○○○○○○○殺人事件』(講談社)でデビューを飾って以降、さまざまな奇手によって読者を驚かせてきた作者の最新作だ。題名が示す通り『不思議の国のアリス』がモチーフとして使われている。同作はミステリーとも相性がよく、国産の作...
小説の問題「口で言うほど易しくない」今野敏と笹生陽子
今回の「小説の問題」は「問題小説」2005年8月号からの再録である。 前回までお目にかけていた原稿は3作紹介パターンの時代だったが、連載中期のこのころは新作1+文庫化作品1の計2冊を紹介する形だった。10年以上前なので、今から見ると下手すぎて正視できないような回もある。その中から、これならなんとか、というものを選んできた。今野敏はまだ『隠蔽捜査』を書く...
杉江の読書 松井今朝子『料理通異聞』(幻冬舎)
五感のすべてが、おいしい、おいしい、と喜んでいる。 松井今朝子『料理通異聞』を読んだからだ。ふうん、料理の時代小説ね、と軽い気持ちで手に取ったら止まらなくなって一気に読了してしまったのである。 物語は天明2(1872)年に始まる。主人公の善四郎は浅草新鳥越町に暖簾を出している、福田屋という料理屋の長男だ。福田屋の前身は八百屋で、今でも精進料理を...
杉江の読書 今柊二『餃子バンザイ!』(本の雑誌社)
餃子食いには二種類いる。違いは、餃子をおかずとしてご飯を食べるか否かである。定食評論家の今柊二は、実家が「ご飯食べない派」だったため長らく餃子をおかずにすることができなかったそうだ。実家の慣例が後の習慣に影響を与えるのも餃子という食べ物の特徴だろう。私も家で餃子を包んで食べた体験があまりに幸せだったため、今でもその大きさのものを好む。一口サイズや、ジャンボ...
杉江の読書 木下昌輝『戦国24時 さいごの刻』(光文社)
主人公の最期をクライマックスに据えると予告し、溯ってそこに至る筋道を綴る。 サスペンス小説としてはそれほど珍しくないが、それを時代小説の連作短編で行ったという点に新味がある。木下昌輝『戦国24時 さいごの刻』はそうした作品だ。 収録作は六篇、巻頭の「お拾い様」で死へのカウントダウンを数えられるのは、豊臣秀吉の遺児・秀頼である。二回にわたる徳川勢...
杉江の読書 天龍源一郎『完本・天龍源一郎 LIVE FOR TODAY いまを生きる』(竹書房)
誰が呼んだか「北向き天龍」。 大相撲で前頭筆頭まで昇り詰めたのちプロレス界に転じ、馬場・全日本での三冠ヘビー級王座戴冠をはじめとする数々の輝かしい戦績を残した、天龍源一郎が奉られた仇名だ。「北向き」とはへそ曲り、変わった性格のことを言う隠語である。 このたび刊行された自伝『完本・天龍源一郎』を読んで、北向きゆえの魅力に改めて気づかされた。斜に構...
杉江の読書 玉袋筋太郎+プロレス伝説継承委員会『抱腹絶倒プロレス取調室』(毎日新聞出版)
藤原(喜明) あのね、これはハッキリ言っとくけど、俺のほうから「俺はアイツの師匠だ」と言うことはないから。俺は教えたつもりでも、教えられたほうがそう思ってなかったら師弟じゃないんだよ。師匠と弟子というのは、弟子のほうが決めるものなんだよ。 藤原喜明が師・アントニオ猪木を語り、グレート小鹿が馬場の「兵隊」時代を振り返り、将軍KYワカマツが国際プロレスの...