読書もの
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杉江の読書 黒沢咲『渚のリーチ!』(河出書房新社)
刊行からだいぶ経ってしまった。本書は日本プロ麻雀連盟に属するプロ雀士が初めて発表した小説である。執筆協力として作家の橘ももの名が記されているが、役割はよくわからない。 主人公の松岡渚は理工学部を出てコンサルティングの会社に就職するが、大学二年生で出会った麻雀の魅力に取りつかれている。やがてテストに合格し、会社員兼業から専業のプロとして活躍するよ...
書評の・ようなもの バトル・ロワイアルは負けなかった、勝ったのだ。
雑誌『映画秘宝』が2022年3月号をもって休刊すると聞いた。同誌には一度だけ寄稿したことがある。2011年1月号の『バトル・ロワイアル』特集号だ。記憶が正しければ、田野辺尚人氏からの依頼だったと思われる。映画『バトル・ロワイアル2』のノヴェライゼーションを担当したことは私にとってライター業の大きな節目になった。それもあって、『バトル・ロワイアル』という作品へ...
書評の・ようなもの 「さしたる不満もなく私は家に帰った」岸本佐知子『なんらかの事情』
日曜日なのだがお昼は外で食べましょうということになった。 別にお出かけとかそういうのではない。美容院とお買物の用事で妻が不在になり、残された子供と二人で飯を作るのもめんどくさいので外に行こうか、という相談がまとまったのである。 うちの子は食べることについては非常に張り合いがなく、何を食べるかと聞くと必ず、 「ラーメン!」 と言...
書評の・ようなもの 「さしたる不満もなく私は家に帰った」武田百合子『ことばの食卓』
お行儀の悪い話でたいへん恐縮だが、私は本を読みながら食事をするのが好きだ。 というよりも、本を読みながらでないと食事をしたくない、と言ったほうがいい。 たいていの人は昼時になると、何を食べようかと店選び、メニュー選びを始める。 おしゃれで、服を選んで買うのがいちばんお趣味という人でも、お腹が空いたときに洋服屋には行かないだろう。時計が好きな人も...
杉江松恋の「新鋭作家さん、いらっしゃい」 北川樹『ホームドアから離れてください』
「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」番外編。デビュー作、あるいは既刊があっても1冊か2冊まで。そういう新鋭作家をこれからしばらく応援していきたい てきぱきと本題に入ってくれてありがたいと感じる小説もあれば、その逆もある。 北川樹『ホームドアから離れてください』(幻冬舎)は、その逆のほうで、寝坊をして大事な仕事をサボってしまった午前中のようない...
書評の・ようなもの 藤田宜永さんのこと
藤田宜永さんが亡くなったという報せを受けて、昨日から呆然としたままです。 藤田さんとは個人的にどうこうという間柄ではなく、お会いしたことも数回しかありません。 しかし日本ミステリー事典の項目を執筆したのが私だということもあり、勝手に親近感を持っていた作家でした。 さらにもう少し違った感情を持つようになったのは、ここ数年前のことです。...
杉江松恋の「新鋭作家さん、いらっしゃい!」 歌田年『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』
「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」番外編。デビュー作、あるいは既刊があっても1冊か2冊まで。そういう新鋭作家をこれからしばらく応援していきたい これだけサービス精神旺盛なデビュー作というのも珍しい。 歌田年『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』(宝島社)は、第18回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作である。この大賞、情報セキ...
杉江松恋の「新鋭作家さん、いらっしゃい」 木村椅子『ウミガメみたいに飛んでみな』
「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」番外編。デビュー作、あるいは既刊があっても1冊か2冊まで。そういう新鋭作家をこれからしばらく応援していきたい 若者は頑ななものだ。 実はじいさんばあさん、おじさんおばさんよりも頑固である。生き方を変えれば、という提案には特に。自分の道からはみ出すことを拒む。 これは考えてみれば当然のことで、まだ歩いた...
杉江松恋の「新鋭作家さん、いらっしゃい」 佐野晶『GAP ゴーストアンドポリス』
「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」番外編。デビュー作、あるいは既刊があっても1冊か2冊まで。そういう新鋭作家をこれからしばらく応援していきたい 引き込みが強い作品だと感じた。 読者の気持ちが引っ掛かる鉤が序盤にいくつか準備されている。それに興味を持ってページを繰りだすと、気持ちを掴まえられてぐいぐいと連れていかれる。娯楽小説としては、たいへ...
杉江松恋の「新鋭作家さん、いらっしゃい」 夏樹玲奈『なないろ』
「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」番外編。デビュー作、あるいは既刊があっても1冊か2冊まで。そういう新鋭作家をこれからしばらく応援していきたい ひとを好きになると世界が開けてしまう。 開く、ではなくて、開けてしまう、のである。それまでは個として完結していた世界が、対になる人を見つけたことで、自ずとそちらに向かって開けてしまう。 幸せ、...