小説の問題
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小説の問題VOL.20 風野真知雄『鹿鳴館盗撮』
『峠の群像』以来久々の忠臣蔵テーマとなった、今年(注:1999年)のNHK大河ドラマ『元禄繚乱』だが、今一つ盛り上がりに欠ける気がする。来年のテーマが何かは知らないが、個人的に好きな時代は幕末である。中でも司馬遼太郎原作の『花神』などは、中村梅之助の大村益次郎が大好きで、TVドラマ嫌いにしては珍しく毎回観ていた記憶がある。だが、大河ドラマには、幕末テ...
小説の問題vol.19 井上尚登『T.R.Y.』
今、書店には何だかとんでもなくおもしろそうな本が平台に山積みになっている。『T.R.Y.』、今年の横溝正史賞受賞作である。なにしろ帯の煽り文句がいい。主人公は「革命という熱病にうなされる怪男児」だ。 この言葉を見ただけでも、正直、おおっと思った。しかも、 「横溝賞史上、最高傑作!」 との折り紙つき(編集者の情熱を感じる)。こ...
小説の問題vol.18 宮嶋茂樹『空爆されたらサヨウナラ』
もうかれこれ三十年以上も私は東京都の住民なのだが、最近になって変わったことがある。都の公報紙「都政だより」にやたらと都知事の顔写真が載るようになったのだ。前任者の青島幸男のころまではそういう慣習はなかったので、これは石原慎太郎の意識的なパフォーマンスなのだろう。私はそれを見るたびに、(失礼ながら)都知事選で敗北した明石康氏のことを思い出してしまうので...
小説の問題vol.17 白石一郎『航海者』
「一九九九年第七の月」は無事に終わったのだろうか。原稿を書いている時点では「恐怖の大王」どころか、空から降ってくるのは雨ばかりだが。大王を待ってぼんやりしている間に、読書界には大傑作が彗星のごとく降臨してきた。白石一郎の『航海者』である。 われわれの知る日本史像は、ここ十年あまりで大きく様変わりした。特に中世民衆史の風景を変貌させるに多大な貢献...
小説の問題vol.16 中島らも『さかだち日記』
今月はちょっと趣向を変えてエッセイを取り上げたいと思う。中島らもの『さかだち日記』である。 中島らもといえば、おそらく一般的には、『明るい悩み相談室』(朝日文庫)の作者として名高いのではないかと思う。天下の朝日新聞に、「うちの父が全裸で野菜炒めを作るので困ります」といったような、かっ飛んだ相談が載っていたのだから、今にして思えば過激な連載だった...
小説の問題vol.15 高見広春『バトル・ロワイアル』
「問題小説」なのだから、たまには文壇で問題になった小説を採り上げよう。そう、高見広春『バトル・ロワイヤル』である。 本書は、某社ホラー大賞の最終候補作となりながら選考委員に忌避されて落選した、という不運な来歴の作品である。これは伝聞でしかないが、中学生が互いに殺し合うという主題の残酷性が選考委員諸氏の真っ当な倫理観にはお気に召さなかったらしい。...
小説の問題vol.14 天童新太『永遠の仔』
本年三月十六日に文芸評論家の瀬戸川猛資氏が亡くなられた。ミステリー・映画に関する評論集『夜明けの睡魔』『夢想の研究』(ともに早川書房)、『シネマ古今集』(新書館)に収録されたような知性とユーモアに彩られた氏の文章がこれ以上読めないことをファンとして残念に思う。今回取り上げる天童荒太『永遠の仔』を、氏ならどのように評しただろうか。 『孤独の歌声』...
小説の問題vol.13 姉小路祐『二重逆転の殺意』
こってりとした大長篇もいいが、たまには味付けのあっさりとした佳作もいいものだ。フルコースのフランス料理ではなく、ついでにすする蕎麦みたいな小説。今回選んだ姉小路祐『二重逆転の殺意』はそんなミステリーである。もっとも舞台は大阪だから、蕎麦というよりうどんか。 姉小路祐。八九年に長篇処女作『真実の合奏』(角川書店)で第九回横溝正史賞佳作を受賞してデ...
小説の問題vol.12 沢木冬吾『愛こそすべて、と愚か者は言った』
宮部みゆきや高村薫といった実力作家を輩出した日本推理サスペンス大賞が新潮ミステリー倶楽部賞と改まってから三回目の同賞では、受賞作の他に審査員特別賞が二作出て、合計三作が刊行の運びになった。この審査員特別賞というのは受賞を逸した候補作を審査員の権限によって出版するものであり、選ばれた作品に審査員の理想が反映されていて興味深い。 今回、私が最も買う...
小説の問題VOL.11 佐野洋『内気な拾得者』
ミステリーが成立するためにはまず初めに事件の影が必要だが、事件という素材だけを放置しても旨いミステリーに化けるはずがない。そのためにはいかに技巧が必要であるか、ということを学ぶ好教材として、今月は佐野洋の短篇集をお薦めする。『内気な拾得者』は、佐野洋が「オール讀物」誌上で続けている連作の短篇集であり、すでに第一弾として『北東西南推理館』(文藝春秋)が...