過去仕事
一覧
芸人本書く派列伝returns vol.2 瀧口雅仁『落語の達人』
前回はやや個人史めいたことに触れ、その流れで石井徹也編『十代目金原亭馬生 噺と酒と江戸の粋』(小学館)を採り上げた。先代の馬生は、1968年生まれの私にとって「一足違いで間に合わなかった」落語家である。十代目の生の高座に間に合っていないという事実が、私の中では一つの節目になっているのだ。音源やビデオだけで知る馬生はなんとも気持ちのいい芸の持ち主であり...
芸人本書く派列伝returns vol.1 石井徹也編『十代目金原亭馬生 噺と酒と江戸の粋』
というわけで今回からタイトルが少しだけ変わった。現在も「水道橋博士のメルマ旬報」で続いている「芸人本書く派列伝」連載についてバックナンバーをご紹介していく。最初の何回かは続きものになっているので連日の更新でご披露するが、後は週一回程度の連載になる予定である。気長におつきあいください。 ================== 「水道橋博士のメ...
芸人本書く列伝classic vol.52(終) 広瀬和生『「落語家」という生き方』
この回で「水道橋博士のメルマ旬報」に「マツコイ・デラックス」というタイトルで連載されていた私の原稿は終わりになる。「メルマ旬報」がそれまでの月2回発行から本当の旬報化、すなわち月3回発行に変わった。それに伴い、原稿も月1回ペースで行くことになり、現行の「芸人本書く派列伝」というタイトルに変更されたのである。しばらく前に気づいてそのまま放置していたが、実は「芸...
芸人本書く列伝classic vol.51 声優の演じる落語と雲田はるこ『昭和元禄落語心中』
立川志ら乃という落語家がいる。落語立川流の真打で、志らく門下である。談志家元存命中に立川こしらと共に昇進を果たした。談志の生前では孫弟子で真打に昇進したのはこの二人だけだ。 こしらは突然落語家休業宣言をして伊豆で農業を始めたり、突然復帰したり、ingressを題材にした落語をやってその筋のファンを喜ばせたり、と行動が読めないのだが、志ら乃も一筋...
芸人本書く列伝classic vol.50 立川吉笑『現在落語論』
立川吉笑『現在落語論』(毎日新聞出版)は、一言で表すなら「完璧」である。 落語論として完璧である。何が完璧なのかと言えば、現状分析である。吉笑の大師匠に当たる立川談志は「現状分析の出来ない者のことを馬鹿と呼ぶ」と定義したが、その伝で言えば吉笑はこの一冊で己が馬鹿ではないことを証明して見せた。自分の立つ位置の観察・分析が完全に出来ている。 ...
芸人本書く列伝classic vol.49 篠原信一『規格外』
この本が届いたその日あたりに、韓国大巨人ことチェ・ホンマンに詐欺容疑で逮捕状が出された、というネットニュースを見た。これ、シンクロニシティ?(それにしても、あの件はどうなったのだろうか)。 今回ご紹介したいのは、篠原信一『規格外』(幻冬舎)である。芸人本書評のコーナーなのに元柔道銀メダリストでカテゴリーエラーもいいところかとは思うが、緑...
芸人本書く列伝classic vol.48 嘉門タツオ『熱中ラジオ 丘の上の綺羅星』
今、死ぬほどむかつきながら一冊の本を読み終えた。 死ぬほどむかついている。しかし非常におもしろい。敢えて言うならむかおもしろい。 嘉門達夫『丘の上の綺羅星』(幻冬舎)がその本である(ハルキ文庫収録にあたり現行題名に。また著者名も現在は嘉門タツオだが原文はママとする)。 今回に限り先にご注意申し上げておく。嘉門達夫ファンが読んだら逆に...
芸人本書く列伝classic vol.47 井上二郎『芸人生活』
又吉直樹『火花』(文藝春秋)がついに200万部を突破し、作品が全文掲載された『文藝春秋』の当該号も105万部を刷ったという。過去の最大部数は綿矢りさと金原ひとみの芥川賞受賞作が掲載された号で118万部だったそうだから、それに告ぐ数字だ。間違いなく『火花』は2015年最大のヒット作と言えるだろう。 芸人が書いた作品であり、芸人のことを書いた小説な...
芸人本書く列伝classic vol.46 新倉典生『正楽三代 寄席紙切り百年』
寄席に行くと15~20分の持ち時間をもらってさまざまな芸人が出てくる。落語家以外の芸人を色物と呼ぶが、その色物と落語家が上手い具合に配置されて登場する。必ず決まっているのは膝代わりだ。中入り後に最初に出てくるのが「喰い付き」、その後一人「膝前」を挟んだりなかったりもするが「トリ」を務める落語家の前に登場するのが「膝代わり」の芸人だ。ここは必ず色物の芸...
芸人本書く列伝classic vol.45 藤原周壱『前座失格!?』
すべての人間が夢を叶えられるわけではない。 天に輝く星があれば、その高さから墜ちた流れ星の数はもっとある。 さらに言えば、星の高さまで届くこともなく燃え尽きた者の数はその数十倍にも達するだろう。 芸人本の中にはそうした「星に届かなかった者たち」が自らの人生について綴ったものも多く存在する。実名を出して恐縮だが、秋山見学者『たけしード...