過去仕事
一覧
小説の問題vol.46「戦争と妖怪の馬鹿」 徳川夢声『夢声戦争日記抄』・京極夏彦『今昔続百鬼』
※またもや1号分逸失していた。一応お断りを。 この号がお手元に届くときには、もう新年である。今年もよろしくお願い申し上げます。 さて、二〇〇二年を迎えるにあたり、密かに期したことがある。それは日記をつけようということだ。文章で糊口を凌いでいる者として恥ずかしいが、日記に関して、私はこれまで三日坊主の域を脱したことがない。必ず四日目...
小説の問題vol.44 「責任者出てこォい!」有栖川有栖『作家小説』・萱野葵『ダンボールハウスガール』
小説の効用は人を快適にさせることだけではない。人間の感情に喜怒哀楽がある以上、時には「怒」のために書かれた小説があるのは当たり前のことである。わが国ではどうも「哀」の小説の人気が高く、その次に「喜」の小説が受けるらしい。泣かせたり、ほのぼのさせたり、というやつだ。いちばん人気が無いのは「怒」の小説である。 それはそうでしょう。わざわざお...
小説の問題vol.43「食欲の秋にモテモテ」 東海林さだお『昼メシのまるかじり』・芦辺拓『十三番目の陪審員』
「問題小説」連載のバックナンバーを再掲しているのだが、2001年4~9月号の原稿ファイルが見当たらないことに気づいた。半年分だから結構な期間である。どうしたのだろう。2001年9月に父が亡くなっているので、もしかするとそのどたばたが原因かもしれない。欠けている分は、いずれまたファイルが見つかったら補完しようと思う。悪しからずご了解ください。 =====...
小説の問題vol.36「かっこ悪くてかっこいいこと」 浅草キッド『お笑い男の星座』・逢坂剛『しのびよる月』
小説におけるかっこいい町とかっこわるい町というのがあるように思うのです。 たとえば、一昔前だったら、六本木は疑いようもなくかっこいい町だったろうけど、今臆面もなく六本木をかっこよく書くのはかっこ悪いことである。逆に本郷あたりを書くのは、少しばかりかっこいいかもしれない。つまり洗練された、常時かっこいい町というものが、東京には存在しなくな...
芸人本書く派列伝returns vol.22 梶芽衣子『真実』・野末陳平『あの世に持っていくにはもったいない陳平ここだけの話』
最近は思うところがあって浪曲関連の文献ばかり読んでいる。ひさしぶりに浅草木馬亭通いも復活させ、ちょっとした浪花節ブームである。 もちろん新しい本も読んでいるのだがメルマ旬報用に題材を探していたら、オフィス北野界隈がたいへんなことになったり、〆切直前になって月亭可朝が亡くなったり、慌ただしいことになってしまった。それぞれ中途半端な形で取り...
小説の問題vol.35 「ふしぎとばらばら」東郷隆『鎌倉ふしぎ話』・伊坂幸太郎『オーデュポンの祈り』
この欄で前に書いたことがあるかどうか忘れてしまったが、私は学生のとき落語研究会にいたことがある。 その会では、はじめにごく短い小噺を習い、次にもう少し長くて起承転結のある小噺、それから「寿限無」や「道具屋」みたいに簡単な噺を始める、といった稽古のつけ方をしていた。「夕立屋」というのが、その二つめの噺である。 夏の暑い盛り、ご隠居が縁側...
小説の問題vol.34 「ちくりと痛いユーモア」天藤真『親友記』・白石一郎『横浜異人街事件帖』
ファイルを探していたら、連載原稿が2回分見つからないことに気がついた。2000年11月分と12月分である。通し番号が2つ飛んでいるのはそのため。発見次第、そこは埋める予定だ。 最近、ミステリーの世界では古典作品の復刊が大はやりで、ファンにとっては、おもしろいことになっている(注:2001年)。 たとえば、ちょっと前に光文社...
小説の問題vol.31 「地震でてんやわんやの密室」獅子文六『てんやわんや』・古処誠二『少年たちの密室(現・フラグメント)』
とりあえず今月読まなければいけない本は、獅子文六『てんやわんや』である。 この本は、「新潮文庫二〇世紀の一〇〇冊」という企画の一環で再刊されたものだ(注:2000年)。一九〇一年に刊行された『みだれ髪』にはじまって、以降一年に一作という規則により百冊の文庫全集を作ろうという企画で、ラインナップもそれなりの布陣である。もちろん、細かいこと...
小説の問題vol.30 「小体で小粋で」吉川潮『浮かれ三亀松』・乙一『夏と花火と私の死体』
吉川潮の小説が好きだ。吉川潮の名前を知らない読者はまさかいないだろうと思うが、春風亭柳朝の一代記を描いた『江戸前の男』(新潮文庫)の作者である。長唄三味線の師匠を父に持ち、音曲師の芸人を妻にするという、氏と育ちの平仄の合った生き方は、当節実に珍しい。ある意味異色の小説家といえるだろう。 そんな人が、江戸前の心意気を語ると実にここ...
小説の問題vol.29 「小説を豊かにする趣向とは?」ベルンハルト・シュリンク『朗読者』・折原一『遭難者』
ベストセラーというと最初から軽蔑して読まない人がいるが、あれは読書人の態度としてよろしくない。人がいい、いいと騒ぐものには、必ずなにがしかの価値観がこめられているはずである。それはなにか、ということを確かめるためだけでも、読んでみるべきだ。 実際に読んでみると、これは自分の価値観とは違う、と感じることもあるが、その違和を放置しないで、なぜ自分と...