杉江松恋
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電撃座の落語会をお休みします~杉江松恋からのご挨拶
新宿五丁目にあるcafe livewireで私が企画立案した落語会を初めて開催したのは、2014年2月のことであった。最初の会は立川談四楼さん独演会「オールナイトで談四楼」である。終電でお客さんに来てもらい始発で帰るという「本当の深夜寄席」を謳ったこの会は、参加者と演者が体力勝負のチキンレースとなった。だいたい演者が勝つのである。もともとそんなつもり...
芸人本書く列伝classic vol.27 笑福亭鶴瓶・桂南光・桂文珍・桂ざこば・桂福團治・笑福亭仁鶴・小佐田定雄編『青春の上方落語』
私が最初に聴いた上方落語は、当代(三代目)桂米朝のそれだった。NHKのテレビで観たはずで、たしか演目は「鹿政談」だった。奉行の裁きの場面に迫力があり、子供心に「すごいおじさんだなあ」と思った記憶がある(関西弁のおっちゃん、ないしはおっさんという言い方は、まだ東京に入っていなかった)。 こうして明確に覚えているのは、逆にそれだけ上方落語を聴いてい...
落語通信 電撃座「談慶の意見だ ♯23」
一昨日の12月21日は新宿五丁目のcafe livewireにて落語立川流真打の立川談慶さん独演会「談慶の意見だ」であった。23回目をもってこの会は一旦終了する。最終回ということで大勢のお客さんが詰めかけ、盛況であった。 演目は以下のとおり。 動物園 らくだ 仲入り 芝浜 「動物園」は怠け者の男が急死したラ...
芸人本書く列伝classic vol.26 立川生志『ひとりブタ』
立川談志没後二年が経過した。その間に多くの弟子たちが師と、立川流に入門した自分自身とを語る本を書き、世に問うてきた。最も精力的に活動してきたのは立川志らくである。師の教えを自身の人生の指針とすることにすべてを費やしてきた志らくは、一冊の本では足りないとばかりに驚くべき数の本を著した。直近の兄弟子である立川談春が「文藝春秋」に追悼文を発表した以外は沈黙...
芸人本書く列伝classic vol.25 吉田照美『ラジオマン 1974-2013僕のラジオデイズ』
人の生き方は個々に独自の在り様があり、それぞれに特別なものである。 そうした前提を踏まえた上で言うが、これは特化した人生を描いた本だ。 吉田照美『ラジオマン 1974~2013 僕のラジオデイズ』(ぴあ)は、2014年の文化放送入社以来一貫してアナウンサー、もしくは番組パーソナリティーとしてラジオの世界で生きてきた著者の半生記である。もち...
芸人本書く列伝classic vol.24 桃月庵白酒『白酒ひとり壺中の天』
「水道橋博士のメルマ旬報」は配信日の1週間前が〆切である。その時点までに原稿を送るか、または休載のコメントを出すことになっている。「伊勢参り」云々というのはそのことである。「伊勢参り」は冗談ではなくて、『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)で街道歩きに目覚め、東海道から伊勢街道への分岐点である四日市から伊勢神宮までの70kmをこのとき本当に歩いていたのだ。自分の...
芸人本書く列伝classic vol.23 三遊亭円丈『落語家の通信簿』
三遊亭円丈という落語家は素晴らしき負けず嫌いである。別に本人と私的に話したことはないが、たぶん推測は間違っていない。それは円丈が2009年に出した落語論『ろんだいえん』(彩流社)で故・立川談志について触れた個所を読めばはっきりとわかる。 同書で円丈は談志の才能を褒めたたえながら、だが談志の限界は古典落語にこだわり新作に行かなかったことだ、ときっ...
芸人本書く列伝classic vol.22 小佐田定雄『枝雀らくごの舞台裏』
二代目桂枝雀が1999年4月19日に亡くなってから14年経っていた。 「もう」でもあり、「まだ」でもある。私にとって上方落語はそんなに近いものではないので、肌の感覚で歳月を感じることができないからだ。 それでも感慨は、ある。私の世代の関東人は、枝雀の東進を驚きとともに受け止めた世代である。後に麻原彰晃が得意気にやってみせた座った姿勢からの...
芸人本書く列伝classic vol.21 立川志らく『落語名人芸「ネタ」の裏側』
この連載は毎回博士から指示をいただいて原稿を書くというスタイルなのだけど、博士が漫才モードで指示を出している余裕がなさそうだったので、こちらから選ばせていただきました。今後はそういうことも増えるかもしれません(注:「芸人本書く列伝classic vol.19」で書いたように、このあたりから選書を任されるようになった)。 というわけで今回...
芸人本書く列伝classic vol.20 松本ハウス『統合失調症がやってきた』
コンビは別れないものだ。 それは立川談志の持論だった。十代のころから多くの芸人を見てきた談志の経験が言わせたものだろう。田中とは別れるな。まだ駆け出しのころの太田光も、会って間もないころの談志にそう言われたという。 コンビは別れないものだ。 そのことについてあれこれ申し述べられるほど、私は芸人について詳しくない。しかし、そこ...