杉江の読書 『ムーミン谷の夏まつり』(講談社青い鳥文庫)
トーヴェ・ヤンソンは素晴らしい喜劇作家でもある。その才能を如何なく発揮したのが、1954年に発表した第四作『ムーミン谷の夏まつり』だ。最高のコメディエンヌ、ちびのミイの初登場作でもある。 本書で再びムーミン谷は水害に見舞われる。とはいえ『小さなトロールと大きな洪水』のそれほど深刻なものではなく、家が水没してもムーミントロールの一家は普段と変わらない生...
杉江の読書 『たのしいムーミン一家』(講談社青い鳥文庫)
嵐が去った後の空のような小説である。 1948年に発表された『たのしいムーミン一家』は、暗い影のあった前二作とは打って変わった陽気な作品だ。作者のトーヴェ・ヤンソンは、少女時代には夏の期間をペッリンゲの島々で過ごした。その幸せな記憶が、ムーミントロールたちの姿に重ねられているのである。 作品の核となるのは、冬眠から目覚めたムーミントロールたちが...
杉江の読書 『ムーミン谷の彗星』(講談社青い鳥文庫)
世界の終わりが近づいてくる。ムーミントロールとスニフは長い旅の果てに異変の原因が彗星の接近にあることをつきとめる。そして、道中で出会ったスナフキンやスノークの兄妹、偏屈なヘムルといった面々と一緒にムーミン谷を目指すのである。彗星衝突の瞬間をパパやママと一緒に過ごし、そして生き延びるために。 トーヴェ・ヤンソン『ムーミン谷の彗星』はレギュラーメンバーの...
杉江の読書 『小さなトロールと大きな洪水』(講談社青い鳥文庫)
1939年、世界が戦争に向けて進みつつあった冬、25歳のトーヴェ・ヤンソンは閉塞感の中で行きづまる。彼女には、諷刺誌「ガルム」に寄稿する際、絵の片隅に署名代わりのように描いていたキャラクターがあった。それを自身の不安感を代弁するような世界の中に投げ込み、行動させる。ムーミン・シリーズの最初の作品、『小さなトロールと大きな洪水』はそうした試みの結果として生ま...
落語会レポート 三遊亭圓歌落語協会葬の日に鈴々舎馬るこ真打披露興行 20170427
先日のパーティーで前売券を購入していたので、池袋演芸場昼席の鈴々舎馬るこ真打披露興行に行ってきた。ちなみにそのパーティーで落語協会の法被を着てチケット売りをしていたのは落語芸術協会の桂宮治さんであった。団体の壁を越えたお付き合いというやつである。本当なら真打披露興行は鈴本の初日に行きたいのだが、日程が合わず、池袋まで持ち越しになった。 ご存じの...
日本警察小説の最高峰、藤原審爾〈新宿警察全集〉刊行!
〈新宿警察〉シリーズは、藤原審爾が日本ミステリー界に警察小説というジャンルを確立させた里程標的作品である。最初に世に出たのは「若い刑事」で「小説新潮」1959年12月号に掲載された。最後は長篇作品『あたしにも殺させて』で、1984年12月5日に双葉社から刊行されたが、その15日後に藤原審爾は亡くなっているので、完結したものとしては最後の作品といえる。...
落語会レポート 下北沢に桂文字助降臨。立川談四楼下北沢独演会20170415
4月15日は万難を排して下北沢に行かなければいけない、と思っていた。 落語立川流(をすでに退会なさっているらしいが)桂文字助がゲスト出演と知らされていたからだ。ご存じの方は多いかと思うが、膝を悪くされていて10年近く高座には上がられていない。「生きて動いている文字助を見られる最後のチャンスかも」と談四楼さんが煽るものだから、もう使命感というか切...
「翻訳メ~ン」#5 17年3月のオススメ翻訳ミステリーはこれでした!
「bookaholic認定ミステリーベストテン2016」海外編の選出でもコンビを組んだ川出正樹さんと、杉江松恋がその月に出た翻訳小説・ミステリーの中からお気に入りの3冊を持ち寄って話すトークコーナー。この回の後唐突に思いついたのでコーナー名を次回より「翻訳メ~ン」といたします。翻訳マン1号・川出正樹と翻訳マン2号・杉江松恋が毎月痺れる情報をお届けしますよ。 ...
「喋る本棚」#6 『坂の途中の家』著者 角田光代さんにお聞きしました。
誰が何と言おうと2016年の最も読むべきミステリーは角田光代『坂の途中の家』です。 「bookaholic認定ミステリーベストテン2016」国内編では私が大推薦したものの、惜しくも2位に終わってしまいました(もちろん、真藤順丈『夜の淵をひと廻り』もたいへんいいミステリーです)。多数決だから仕方ない。しかし溜飲の下がることに、第70回日本推理作家協会賞長...