杉江の読書 『つげ義春全集2』(筑摩書房
『つげ義春全集1』の後半に収められた「おばけ煙突」は無情感の漂う労働者の生活スケッチであり、後の「大場電気鍍金工業所」などを予感させる作風であった。しかし、そのまま順調に同路線を歩んだわけではなく、1960年代に入るとつげは迷走と言っていいほどに多彩な作品を手がけるようになる。おそらくは貸本漫画業界が末期を迎えており、強い柱となるジャンルが存在しなかったため...
小説の問題 「考えすぎてしまう人たち」朝倉かすみとヒラリー・ウォー
あれ、話のマクラでスモール・フェイセスに触れている。今回の「小説の問題は」「問題小説」2006年3月号からの再録なのだが、なんでそんな話を振ったのかまったく覚えていない。このころは何度目かの個人的なロックブームだったのかもしれない。旧い原稿を漁ると、こういうことがよくわる。10年前の自分が考えていたことなんて、よくわからないものだ。 このときの原稿...
杉江の読書 『つげ義春全集1』(筑摩書房)
つげ義春の本格的デビュー作は1955年に発表した描き下ろし単行本『白面夜叉』だ。『つげ義春全集1』(現・『つげ義春コレクション 四つの犯罪/七つの墓場』ちくま文庫)にはその直後、最初期の作品群が収められている。巻頭の『四つの犯罪』は温泉宿の逗留客が過ちを告白していくという連作長篇形式で、どれも完全犯罪の計画とその失敗を描くことが主軸になっている。その中の1...
10/30(日)「フミ・サイトーが語る昭和活字プロレス学」
『昭和プロレス正史 上巻(イースト・プレス)』刊行記念トークとして、10月30日(日)19時30分より著者の斎藤文彦さんにお話を伺うイベントをやります。ご存じのとおり斎藤さんは、長く「週刊プロレス」でUSAマットの最前線を教えてくれるコラムを連載しておられました。近著『プロレス入門』(ビジネス社)は、正統派のプロレス史を綴った本でもあります。 ...
杉江の読書 斎藤文彦『テイキング・バンプ』(ベースボール・マガジン社)
1990年代、プロレス業界が何度目からの最盛期を迎えていたころ、「週刊プロレス」は公称40万という驚異の発行部数を記録した。「USAプロレスリング・コラム」は同誌の人気連載で、私は購入すると真っ先に読んだ。斎藤文彦『テイキング・バンプ』はその連載の初期原稿をまとめたコラム集である。今では珍しくなくなったが、1994年の刊行当時はプロレスラーの素顔を伝える本...
杉江の読書 市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』(東京創元社)
第26回鮎川哲也賞受賞作『ジェリーフィッシュは凍らない』の帯に「21世紀の『そして誰もいなくなった』登場!」とあり、気になって読み始めた。受賞者の市川憂人は東京大学新月お茶の会出身者である。「ジェリーフィッシュ=クラゲ」とは、作中に登場する飛行船の愛称である。飛行船の運用が常態化した、別の歴史中の事件なのである。作中の時代は1980年代に設定されている。こ...
杉江の読書 京極夏彦『虚実妖怪百物語 序』(角川書店)
京極夏彦は近世と近現代がいかに連続していて、いかに断絶しているかを明らかにしようとしている作家だ。近世文学の再現や柳田國男『遠野物語』の整理と再構成などの仕事に作家としての意図は明らかであるが、水木しげる研究こそはその根幹をなすものである。水木という欠片を嵌め込むことで、いかに近世と現代とが接続しうるかを京極は示した。 10月22日から3週間連続で序...
杉江の読書 大崎梢『よっつ屋根の下』(光文社)
大崎梢『よっつ屋根の下』は、家族の小説であり、家族の時間の小説である。 東京都の閑静な住宅街である白金で、平山家の四人は穏やかに暮らしていた。その日々が突然終わりを迎えたのである。平山滋は千葉県銚子市への転勤を命じられる。明らかな左遷である。それは妻である華奈にとっては受け入れられないことだった。長男の史彰、長女の麻莉香には私立校受験の準備もさせてい...
大崎梢さんにお聞きします 2016/10/20
みなさん、私が解説を書いた大崎梢さんの短篇集『忘れ物が届きます』(光文社文庫)はもう読んでいただいたでしょうか。初めて大崎作品に触れる人にもなじんでもらえるように、入門ガイドのつもりで書いたので、この機会にぜひ。 杉江は池袋の西武百貨店内にあるコミュニティカレッジというカルチャーセンターで「ミステリーの書き方」という講座を受け持っています。月2回、A...
館淳一さんだけが知っている 2016/10/24「愛欲と妄想の20世紀巷談」
官能作家の大ベテラン、館淳一さんにはさまざまな顔がある。ベティ・ペイジ研究などはご自身の職業にも関連があるが、中にはまったく無関係のものもある。そのうちの一つが雑学王の顔で、たとえばSessueは館さんがずっと関心を持っている問題だ。 映画ファンの方ならご存じだと思うが、これは日本人俳優早川雪洲から来た言葉である。身長172cmの雪洲は大男大女揃いの...