いつの時代、どのジャンルでも繰り返されることだが、若くていい男(いい女)のプレイヤーに人気というものは集中しがちである。スポーツしかり、芸能界しかり。文壇だって、ちょっと油断すると、作品の内容以上に作家の風貌を前面に押し出して売ろうとする手合いが現れる。キャラクターは商品性なのだから、別にいいのだけどね。
別にいいのだけど、売り方がそれ一辺倒になってしまうことには抵抗を覚える。価値基準が一つしかないジャンルは痩せる危険があるからだ。
「若いおじさんの会」はそうした懸念もあって始めた落語会だった。
この会は「若い=入門から10年以内」だけど「おじさん=入門時、すでに33歳以上だった」男性落語家だけを集めて、リーグ戦で闘ってもらおうという趣旨のものである。総当たりで全6戦、その中でもっとも勝ち星を稼いだ者が輝く中年の星になるというわけだ。いや、それが嬉しいかどうかは別問題なのだが。
呼びかけに応えて集まってくださった演者は、香盤順にこの4名である。以下、敬称略。
・春風亭柳若(瀧川鯉昇門下。落語芸術協会)
・柳家さん光(権太楼門下。落語協会)
・三遊亭鯛好(三遊亭好楽門下。五代目円楽一門会)
・立川寸志(立川談四楼門下。落語立川流)
毎回2席、自由演技とテーマ演技で2席ずつを演じてもらうことになる。第1回の出演者は柳家さん光と立川寸志のお2人。テーマは「師匠からもらった噺」となった。
この日の番組は以下の通り。
つる さん光(師匠からもらった噺)
権助魚 寸志(師匠からもらった噺)
仲入り
反対俥 さん光(自由演技)
一眼国 寸志(自由演技)
普通の二人会だと演者ABがいたらABBAというように仲入り前とトリを分け合って務めるものだけど、それは絶対嫌だと頑強に主張したさん光がじゃんけんで圧勝し、見事に前の上がりを獲得した。うん、兄さんずるいね!
つると反対俥はふんわりと軽い出来、後者の枕では客の意向を完全に無視してアイドルの話題を振り(アイドルがお好きなのです)、その強引さを維持したままで噺に入ってスピード感で圧倒してみせた。
寸志・権助魚は、師匠譲りの権助のキャラクターが活きた噺だった。とぼけた噺は、前座時代からの武器の一つでもある。一眼国は、新しい見世物を探す興行師が旅の六十六部から聞いた情報を元に一つ目の少女を捕らえに行くという噺で、故・林家彦六が得意としたように怪異譚として演じられることが多い。これを寸志は爆笑噺に仕立ててみせたのだ。旅の話をする六十六部が元落語家でやたらといい加減、というのでまず笑わせ、後段の興行師が旅に出るくだりもおかしいフレーズが多い。一歩進むごとに暗くなる原っぱに足を踏み入れて、試しに一歩ずつ戻ってみると明るくなる、というくだりで笑った。
勝敗のジャッジは主催者である杉江に任されていて、かなり迷ったのだが、ぬけぬけとした味で客を手玉に取ったさん光に軍配を上げた。お客の間からは不満の声も漏れたので、人によって判断の分かれるところだったと思う。これにてまずさん光1勝、寸志1敗である。
残る勝負日程は以下の通り。
VOL1 6/22(水) さん光×寸志
VOL2 7/18(月)さん光×鯛好
VOL4 10/5(水)柳若×さん光
VOL5 11/9(水)鯛好×寸志
VOL6 12/7(水)柳若×寸志