餃子食いには二種類いる。違いは、餃子をおかずとしてご飯を食べるか否かである。定食評論家の今柊二は、実家が「ご飯食べない派」だったため長らく餃子をおかずにすることができなかったそうだ。実家の慣例が後の習慣に影響を与えるのも餃子という食べ物の特徴だろう。私も家で餃子を包んで食べた体験があまりに幸せだったため、今でもその大きさのものを好む。一口サイズや、ジャンボ餃子に対してどうしても愛情が持てないのだ。
『餃子バンザイ!』は、WEB本の雑誌連載を元にした今柊二初の餃子本である。今には『定食バンザイ』『定食と古本』他の定食関連のほか、『立ちそば大全』『とことん!とんかつ道』などの単一の食べ物を取り上げた著書がある。本書はその系譜に連なるものだ。
全体は五部に分かれている。野毛・萬里などについて書かれた名店・老舗編が最初で、首都圏編、全国編と続く。そのあとにチェーン店編があるのが著者らしいところで、立ちそばや丼を題材にした過去の本でも、今は必ず富士そばや松屋などに足を運んでいた。
今の著書では世評が高い店が取り上げられるとは限らないため、グルメガイドにはあまり向いていない。今が訪ねた店について書いて、食べた経験からさまざまなことを考える。それだけなのである。自身を定点観測の中心として設定し、そこから見えるものだけを書くことに今の関心は集中している。著書にしばしば食文化の過去を掘り起こすコラムを併載するのは、歴史という太い柱を据えることで自身の位置を明らかにするためだ。そうした形で「今柊二」というサンプルを世の中に提出し、記録として残そうとしているのだろう。
五部構成の最後は海外篇だ。今は一家で海外旅行に出た際、定食屋や、そのとき書いている本のテーマと関係のある店を見つけると、入ってご飯を食べてもいいか、家族にお伺いを立てるのだという。そのときの様子を想像するとなんだか可愛いではないか。
(800字書評)