表紙を見て、あ、島風、と思ったが違いました。ウサギである。
早坂吝『アリス・ザ・ワンダーキラー』は、第50回メフィスト賞を獲得した『○○○○○○○○殺人事件』(講談社)でデビューを飾って以降、さまざまな奇手によって読者を驚かせてきた作者の最新作だ。題名が示す通り『不思議の国のアリス』がモチーフとして使われている。同作はミステリーとも相性がよく、国産の作品だけを見ても、バカボンのパパまで登場するパロディが楽しい辻真先『アリスの国の殺人』や二重世界の奇想が冴える小林泰三『アリス殺し』(ともに創元推理文庫)などの傑作が過去に存在する。後続の本書は、不思議の国に飛び込んだアリスの冒険を謎解きでなぞっていく点に特色がある。
10歳の少女アリスは、父親のような名探偵になりたいと憧れている。しかし母親は、彼女の気も知らずに自分勝手な教育方針を押しつけてくるばかりだ。ある日アリスは、自宅の広大な庭で出逢った青年から、ヴァーチャル・リアリティを用いた推理ゲームに挑戦するよう持ちかけられた。第一の謎はネズミ穴でつながれた2つの部屋から成る密室からの脱出ゲームである。手前の部屋には体が大きくなるクッキーと小さくなるシロップが、穴の向こうの部屋には唯一の扉を開けるための鍵が、それぞれテーブルの上に置かれているという。二種類のアイテムをうまく使いこなせれば、ネズミ穴を行き来して鍵を開けることができるのだ。生意気な案内役の白ウサギと口論しつつアリスは推理を開始する。
次々に謎を解いていき最終的にハートの女王の元へと到達するという筋立ては『不思議の国のアリス』準拠だが、その背後にもう一つの趣向が隠されているという点は続篇『鏡の国のアリス』の要素も含んでいる。帯で強調されている大仕掛けもいいが、私は各章の山場として設定されているパズル色の強い謎解きを楽しんだ。早坂にはこうした手数の多い短篇をもっと書いてもらいたい。
(800字書評)