通報を受けた警察官は現場に急行し、左の眼窩に鍬の刃が突き刺さった、無残なハルディス・ホーンの死体を発見した。通報者である少年は、現場近くでエリケ・ヨルマ・ピヨテルを目撃したという。エリケは奇矯な言動で知られ、付近の住人に恐れられていた人物だった。事件を担当するはずのコンラッド・セイエル警部は予想外の足止めを食う。署に向かうために街を歩いていて、銀行強盗に偶然出くわしてしまったのだ。犯人は人質をとって逃走した。目撃者の一人となったセイエルは、森の殺人事件をひとまず部下のヤーコブ・スカラにまかせる。
『晴れた日の森に死す』はノルウェーを代表するミステリー作家カーリン・フォッスムが1997年に発表した、セイエル警部を主人公とするシリーズの第3作だ。同シリーズ第2作の『湖のほとりで』(PHP文芸文庫)はリヴァートン賞、ガラスの鍵賞などの北欧圏における名誉ある賞を獲得している。
冒頭に2つの重大事件が起きるので、おおっ、と思って読み進めると、意外極まりない合流の仕方をする。銀行強盗の犯人・モルガンは、強盗の運転手はやったことがあるが、自ら拳銃を構えて襲撃したことはないという人物で、どうにも頼りない。その彼が面倒な人質をとってしまって弱り果てる様子がオフビートな調子で描かれるのである。殺人事件のほうは、エリケが捜査対象の中心となる。体も洗わず不潔な様子で、誰とも話すことがなく、店頭の品物を勝手に持って行く。そんな彼は地元住民にとって忌避すべき存在だった。しかし本当に彼は危険人物なのだろうか。セイエル警部は風評に惑わされずに真相を見極めようとしてエリケの主治医を訪ねる。ここが本書の美点で、社会から疎外される者を受け止めようとする誠実さを感じる。直感ではなく物証に基づいて真犯人が暴かれる終盤と、そこにおけるセイエルの態度も素晴らしいものだ。
(800字書評)