〈わたし〉の両親と五歳の妹は、彼女が男にクンニリングスをさせている間にマチェーテを持った傍観に惨殺された。過去と対面することを避け、ロンドンの底へと潜り込んだ〈わたし〉は、時にセックスのサービスを提供することもあるクラブで働き始める。状況が変わり始めたのは二つの出会いがあったからだ。一つは物柔らかな外見だが、その実は一流の殺し屋という評判のあるマーク・チェスターが客についたことで、彼は〈わたし〉の家族が殺された一件を調査してくれるという。もう一つの出会いは、やはり客としてクラブにやって来た二人のロシア人とのそれだった。彼らは、〈わたし〉が不公平な愛人関係にある店の経営者ノエル・ブレイブンの個人情報を盗むように圧力をかけてくる。
『ガール・セヴン』は英国の新人作家ハンナ・ジェイミスンの長篇第二作だ。語り手の〈わたし〉こと石田清美は、日本人と英国人の両親の間に生まれた女性で、高校生活を日本で送り、ロンドンにやって来た。一家はそこで奇禍に見舞われたのだ。彼女の通称であるセヴンの由来は日本時代に遡る。当時の親友・聖子との思い出は〈わたし〉にとって何よりも貴重なものであり、天涯孤独の身の上となった今は、日本に帰る金を稼いで彼女と再会することが唯一の希望である。身辺で起きる血腥い出来事の圧倒的な現実感と聖子との幸せな時間の記憶との往復が小説のリズムを形作っていく。
物語の構造は非常に単純だ。女性である〈わたし〉=セヴンは無力であり、男どもがそれに付け込んでくる。レイプし、切り刻み、そこらへんに投げ棄てようとしてくる。物のように。セヴンはそれに機智と勇気と逆ギレとで立ち向かうのだ。おのれの弱さに当惑しつつも最終的に彼女が見出す真実は単純明快であった。「死なないこと」、そしてそのために「あいつら全員殺すこと」。生き残りのために他のすべてを犠牲にし、決して後ろを振り向こうとしない。潔く、美しい。
(800字書評)