間もなく世界が終わるのに、殺人事件の謎を解くことに意味があるか。
その問いを初めて読者に呈示したのはエラリー・クイーン『シャム双子の謎』(創元推理文庫)だった。探偵エラリーにとっての世界の終わりとは山火事に遭って関係者が全員焼死するという局地的な出来事だったのだが、それを世界的な規模に拡大し、小惑星の衝突によって地球文明自体が崩壊するという事態を三部作の長篇で世に問うたのがアメリカの新人作家ベン・H・ウィンタースだったのである。その第一作『地上最後の刑事』(ハヤカワ・ミステリ)は、設定の奇抜さだけではなく犯人当ての論理に見るべきものがあったため、私は2014年の『本格ミステリーベスト10』(原書房)の第一位に投票している。
比重が謎解きから世界崩壊のサスペンスを描くことに写った第二作『カウントダウン・シティ』(同)を経て最終作となる『世界の終わりの七日間』では、第一作を超える見事な謎解きが展開された。失踪した妹を追ってとある場所にやって来たヘンリー・パレスは、彼女を含む人々が地下に居場所を移したらしいことを知る。入口は封印されており、そのままでは侵入できない。付近を捜索するうちに彼は、喉を切られて瀕死の重傷を負った娘を発見した。おそらくは地下に潜んでいるであろう犯人と妹に会うため、パレスは元来た道を引き返していく。地下への扉を開く工具を手に入れるためだ。
本作では、小惑星衝突まで七日間と期限が迫っている。しかし作品から感じられるのは、それに伴って湧き起こるはずのサスペンスではなく、もっと静かなものだ。人間の文明は実質的な終焉を迎え、後は決定的な瞬間を待つばかりになっているのである。すでに世界が終わってしまった後のような諦念が小説全体を包み込んでいる。唯一、パレスの中にある欲求だけがそれに猛然と抗う。誰が犯人なのか、知らずにはいられない。謎解きを求める彼の心の声が音のない街に響き渡るのだ。
(800字書評)