〈新宿警察〉シリーズは、藤原審爾が日本ミステリー界に警察小説というジャンルを確立させた里程標的作品である。最初に世に出たのは「若い刑事」で「小説新潮」1959年12月号に掲載された。最後は長篇作品『あたしにも殺させて』で、1984年12月5日に双葉社から刊行されたが、その15日後に藤原審爾は亡くなっているので、完結したものとしては最後の作品といえる。25年にわたり、主に月刊小説誌を中心に作品は書き続けられた。新宿署のエース・根来を中心とし、人情家の徳田老、根来の妹・登志子と婚約中の弟分・戸田、猪突猛進型のマル暴刑事・山辺、探偵作家志望で現代っ子の伊藤といった面々が毎回話を盛り立てる。後の刑事ドラマなどはこのシリーズが作った群像劇の形に大きな影響を受けている。
しかしながらこのシリーズは、現代の読者にとって手に取りやすい作品ではなかった。2009年に双葉文庫から全4巻の作品集が出たものの現在は品切中である。しかもこの文庫はシリーズ全体を網羅したものではなく、1975年に双葉社から刊行された『新宿警察』『続新宿警察』を再編集した内容であり、収録されなかった短篇も多かった。長篇に至ってはすべて絶版状態である。
私はこの現状を残念に思い、かねてよりシリーズの復活、および再評価を望んできた。このたび、アドレナライズ社より電子書籍10巻という形で全集の刊行が実現したことは誠に喜ばしい。ミステリー・ファンにとっては何よりの素晴らしい贈り物となるはずである。
全集刊行にあたり、杉江は収録作の選択と各巻の解説を担当した。また、作品ごとの表記揺れ、収録時期によって異同のある人名などの統一も監修者として行っている。
全10巻の内容は以下に記すとおり、短篇集7、長篇3という構成である。
今回、短篇集の構成については内容の傾向が似たものを集めてみた。たとえば第3巻の〈対決篇〉は新宿署の刑事たちを仇とつけ狙う犯罪者との闘い、第5巻の〈純情篇〉は私人としての刑事たちの思いや恋愛などを描いた作品、第8巻〈人情篇〉は非情な都会で翻弄されながら生きる人々の姿を描いたものを多く収める、といった具合である。作品の希少度にも配慮し、各巻にレアもの、すなわち一度しか単行本収録がない作品を収めるようにしてある。「新宿怨み節」「赤い藁」の2篇については、今回が初の収録である。作品数の多い書き手ゆえ、これで完全と言い切る自信はないが、少なくとも現時点で判明しているものについてはすべて網羅するように努力した。実は番外編のような作品がいくつかあるのだが、ほとんどカメオ出演のような形でしか新宿署の刑事たちが出てこないので、それは割愛している。そのへんの事情については各巻の解説をご覧いただきたい。
藤原審爾ファンとして新しい〈新宿警察〉を世に送りだすお手伝いができたことを心から誇りに思う。願わくばこの本が、一人でも多くの手に届きますように。