先日のパーティーで前売券を購入していたので、池袋演芸場昼席の鈴々舎馬るこ真打披露興行に行ってきた。ちなみにそのパーティーで落語協会の法被を着てチケット売りをしていたのは落語芸術協会の桂宮治さんであった。団体の壁を越えたお付き合いというやつである。本当なら真打披露興行は鈴本の初日に行きたいのだが、日程が合わず、池袋まで持ち越しになった。
ご存じのとおり数日前に三遊亭圓歌元会長が亡くなり、この日は午前中に協会葬(告別式)が予定されていた。協会員はみなそちらから駆けつけてくるのだろうな、などと思いつつ会場入りする。平日昼だが、さすがの入りで小さな池袋演芸場は満員になっていた。
本日の番組は以下の通り。以下敬称略である。
開口一番 子ほめ 小多け
鉄道戦国絵巻 駒次
黄金の大黒 一之輔
漫才 ロケット団
宮戸川 玉の輔
芋俵 金時
太神楽 仙三郎社中
人形買い 一朝
漫談 馬風
仲入り
真打昇進披露口上(司会:玉の輔、吉窓、正蔵、馬風)
音楽パフォーマンス のだゆき
漫談 正蔵
大安売 吉窓
紙切り 松落
千両みかん 馬るこ
代演が出ていて、のだゆきの元は小円歌、吉窓は市馬だった。選んで券を買ったわけではないのだが、私は小円歌マニアなので、小円歌・正楽の揃う興行というのはお得だと思っていた。だがまあ、告別式の後に駆けつけろというのは無理だろう。市馬会長は斎場まで同行された由。仲入り前の馬風曰く「焼けたら来るはずなのにまず来ない。俺たちの半分くらいしかないんだから早いだろうに」と故・圓歌が小柄だったのをネタにして客席を沸していた。この日の枕はさすがに故人のことが多く、特に正蔵は圓歌と並んで爆笑王と称された父・三平の逸話で一席。主任の馬るこも枕は元会長のことだった。笑って、偲んで、送り出す。落語界らしいからっとした見送り方である。
写真は声を掛けて切っていただいた「授業中」だ。最前列に座ったのはたまたまだったのだが、今日は圓歌のお題がないと嘘だ、と思っていたので誰も声を掛けなかったら言おうと思っていた。というわけで「授業中」である。もしかすると圓歌そのものを切ってくださるかな、とも思ったが、直前のお客様が「馬るこ」とおっしゃったので、演者本人の線は消えた。仕上がったものを見ると、これは見事な「授業中」である。生徒がぴんと手をのばして教科書を捧げ持っているのと、先生が教鞭を手にしているのがそれらしいよね。大事にいたします。
トリネタの「千両みかん」は馬るこらしい改作。かねてから「夏にみかんだったらアレがあるんじゃないの」と思っていたのだが(江戸時代にアレがあったのかという話はさておいて)その問題を見事に解決し、かつ自らの山口県出身という背景もさりげなく織り込んだ見事な寄り道、そして終盤の展開に笑わせていただきました。みかんに恋い焦がれて痩せ細った若旦那、という設定が馬るこの体格だと説得力がなあ、と思っていたら、それもちゃんと解決されていた。破天荒なようでいて実は合理的な馬るこ噺である。