街てくてく~東海道・岡部宿の赤いアレ

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街道歩きの楽しみは、街の景色が移り変わるところにある。

家を中心にして周辺を散歩するのは定点観測である。気が付かないうちに店が入れ替わっていたことに驚き、街路樹についたつぼみが次第にほころんでいくのを幾度も足を運んで見守る。それに対して街道歩きでは、通り過ぎていく街の眺めに興趣がある。たいていの街路は平凡で、どこも同じに見える。しかし、よく目を凝らしてみるとその街にしかない特徴がどこかにあるのだ。それに気づいたときに生じる小さな驚きを味わう。これが車などの移動手段では叶わない、徒歩旅行の醍醐味だ。

先日歩いた藤枝市にも、小さなそこだけの眺めがあった。歩いていると、民家の軒先や集会所の前などに、赤く塗られた丸看板があることに気づく。よく見ると横には小槌が下がっているのである。看板には「非常板」と書かれている。

その名のとおり、非常の際に使われるものだろう。火の見櫓の半鐘の如く、槌で板を叩いて危急を知らせるのだ。半鐘は火事の元からの距離によって叩き方が違ったというが、もしかするとこの非常板もそういう決まりがあるのかもしれない。幸いなことに私が歩いているときに鳴らされることはなかったので、確かめられなかった。いや、ずっと鳴らされないほうが平和でいいのである。

この板の存在は赤瀬川源平『路上観察 華の東海道五十三次』(文春文庫)で知った。少し前の本だったので、自分が2012年に歩いたとき、同じものを実際に目にしたときはちょっとした感動を覚えたものである。赤瀬川本で非常板は東海道21番目の宿場・岡部のものとして紹介されている。岡部は元静岡県岡部町だったが、合併して今は藤枝市の一部になっている。非常板も岡部宿を出て藤枝宿に入る手前ぐらいまで存在を確認できた。たぶん、その境界がかつての岡部町と藤枝市のそれなのだろう。

【非常板あれこれ】

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