4月14日は第9回翻訳ミステリー大賞贈賞式であった。偶然さまざまな予定が重なってしまい、いくつかは欠席せざるをえなかった。残念だったのは落語芸術協会・桂夏丸さんの真打昇進披露パーティーに出られなかったことで、事前にご挨拶をしてお詫び申し上げた。
もう一つ大事な予定が重なったのがPTA会長同期の親睦旅行で、中禅寺湖に泊まりがけで行こうということになった。こちらは、翻訳ミステリー大賞贈賞式を途中で失礼して会場のある蒲田を出れば、19時には現地にたどり着ける。そこで事務局にお話しし、自分の出番が済んだら退出させてもらうことにした。
参加された方なら気がつかれたと思うが、今年からいくつか贈賞式もやり方を変えている。最大のものはプログラムの順序入れ替えで、開票と贈賞を最後に持ってきた。その日の大詰めで結果がわかったほうが、ご覧になっている方も楽しめるのではないかという判断である。また、式の後の懇親会は今年から廃止した。本会と懇親会と両方の受付を同時にやるのは、結構労力の要ることなのである。その分を廃止することによって当日参加も受け付けられるようになったし、事務局の負担は格段に減った。これらの措置は、賞を長く続けていくのであればやむをえない変更だったと思うのだが、もしご意見があれば事務局宛にお寄せいただきたい。
京浜東北線が事もあろうに蒲田で電車が立ち往生するという不測の事態もあったが、なんとか時間通りに出番を終え、会場を後にする。そこから京急線と日比谷線を経由して北千住まで行き、東武線の特急に乗り継ぐという予定であった。ところがここでへまをしてしまう。人形町で乗り換えるつもりが、一駅手前の日本橋で電車を降りてしまったのだ。日本橋で乗り換え案内を見たが、いくら探しても日比谷線は出ていない。当たり前なのだが、すっかり思い込んでいるので駅員に文句をつけたら「あの、日比谷線は次の人形町ですが」と申し訳なさそうに言われて気が付いた。なるほどそれはそうだ。
納得はしたがそれでは済まない。乗り継ぎはぎりぎりなのである。これで予定の東武特急は捕まえられないと決まった。そうなると問題で、日光から中禅寺湖に行く最終バスには間に合わなくなった。ホテルまでは車で40分とあるから、タクシーなんかで行ったらいくらかかるかわかったものではない。一瞬途方に暮れかけたが、そこが日本橋駅であることに気づいて、次善の案を思いついた。日本橋から東京駅までは指呼の距離である。それこそタクシーで東京駅まで行って、東北新幹線に乗ればいいのだ。急いで地下鉄の駅を出て車を拾い、発射一分前の東北新幹線に乗り込むことができた。4月の頭だというのに車内は修学旅行らしい中学生でいっぱいであった。これだとビールで一息入れるというわけにもいかない。
結局、宇都宮で下りて日光線に乗り継いだら、なんとか予定のバスに間に合うことができた。日光駅から中禅寺湖畔までいろは坂を経由して一時間弱。途中で鹿の親子を見かけるなど、寂しい山道である。しかしこの雰囲気はいい。あまりなじみのない駅から最終バスに乗ってしまうのが私は好きだ。引き返せない場所に行ってしまう気分が、下りたら途方に暮れてしまうかもしれないのが好きなのである。
中禅寺湖畔の郵便局前というバス停で下車した。周囲には街灯など一本もなく、絶え間なく降る雨が容赦なく体を濡らしていく。遠ざかるバスの尾灯を見ながら、私は奇妙な満足感に浸っていた。