合同誌を除けば、生まれて初めて印刷会社で作った同人誌が『東方同人誌マストリード100の・ようなもの』である。印刷会社で作った同人誌、とわざわざ断らなければいけないのは、十代の時にコピー誌をやっているからだ。あれはしかし、すべて手書きで数部しか作らなかったので、頒布を前提にして最初から書いたのは本書が初めてである。その9で最初の同人誌を扱うというのは順番が逆になるが、お許しいただきたい。
タイトルは、自著のパロディになっている。『読み出したら止まらない! 海外ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)がそれだ。この本は、刊行された時点で手に入るもののみ100冊を選び、初心者でも海外ミステリーの世界に親しめるようにするという趣旨のブックガイドである。『東方同人誌マストリード100』も目的は同じで、ニコニコ動画で初めて東方Projectを知った人間が極めて僭越ではあるが、この本を通じて東方の二次創作漫画に親しんでもらえれば、という願いがあった。ただし、海外ミステリーの場合、一応私は主要作品は押さえているのだが、膨大な数の東方同人誌を知識として網羅できているとはいえず、また、流通形態からいってどの本も必ず手に入るとはいえない、という事実から、「これがマストリード」と謳うのは到底無理であった。だから「の・ようなもの」なのである。杉江松恋の管見に入った限りの秀作をお薦めする本、と思っていただきたい。
100冊の同人誌は、一つの例外を除いて一サークル一冊の紹介になっている。また、各作品の紹介にはおまけをつけてあり、傾向の類似したものを書名だけは挙げるようにしてある。つまり、書名だけならだいたい200ぐらいあるということだ。
本書の装画は〈赤色バニラ〉のくまさんにお願いしているが、編集は〈日々徒然。〉の古翠さんではなく、杉江が自分で手掛けている。知識も人脈も乏しく、一人で手作りせざるをえなかったのだ。まったく未知の作業を、時には首をひねりながらやっていたあのころの日々が時折懐かしくなる。データ入稿のやり方もわからず、川崎の「ねこのしっぽ」さんにUSBで原稿を持ち込んだ。見本刷りを出してくれた店員さんには「えー、これ全部読んだんですか」と言われたのであった。
この本の情報は2014年春時点のものなので今となっては若干古いが、ある時期の東方サークルの状況を知ることはできるし、何よりここに挙げている本はどれもおもしろいので、ぜひ手に取ってみていただきたいと思う。よかったら私の最初の同人誌、読んでやってください。