「水曜どうでしょう」の企画、「東京2泊3日70km」の行程を自分でも歩いて追跡してみようと思い立ち、起点である羽田空港国内線第2ターミナルから第1の目的地である田園調布へ向けて出発した(前回はこちら)。どうでしょう班は田園調布を通過後、1泊目の宿泊地を品川プリンスホテルに定め、中原街道を延々と北上していった。録画を見ると、中原街道沿いに雪が谷大塚の歩道橋、品川区旗の台の路上、JR五反田駅前で一行が途中経過を報告しているのを確認できる。
私は出発した時刻が遅かったこともあり、初日は田園調布で止まってしまった。だって、古書田園りぶらりあがあったんだもの。後の行程を手つかずのまま残しておくのは気持ち悪い。なので、その翌日に余りの部分、田園調布から高輪台までの道のりを歩いてしまうことにしたのである。
早朝の田園調布駅は学生でいっぱいだ。しかもなぜか女子学生ばかりである。田園調布雙葉ほか、女子校が多いからだろう。登校する生徒たちに混ざって田園調布通りをとぼとぼ歩く。録画で確認してみたが、この後の行程は単純である。田園調布通りを歩いて、中原街道にぶつかったら曲がり、そのまま五反田駅まで行く。五反田駅を過ぎて高輪台まで行くと、そこにどうでしょう班初日の宿泊地、グランドプリンスホテル高輪がある。品川プリンスホテルには部屋が空いておらず、当時の高輪プリンスホテルに宿をとったのだ。
中原街道への曲がり角に当たるのが、大田区雪が谷大塚である。ロケは2月だったので、このへんでもう夜になってしまっている。今、雪が谷大塚にいる、という報告は歩道橋の上から行われた。カメラ担当の嬉野ディレクターが荷物から照明を出すのが面倒くさかったため、街灯のある歩道橋上で撮影することになったのだという。とても「水曜どうでしょう」らしい話である。
このロケ地には二つ候補がある。一つは、中原街道が環状八号線と交差する位置にある歩道橋だ(以降第一歩道橋)。田園調布の駅前通りを歩いてくると、この第一歩道橋にぶつかる。これを渡っても渡らなくても中原街道には行きつけるので、絶対に上がったという保証はない。もう一つは中原街道に曲がったところにある歩道橋である(以降第二歩道橋)。録画を観ていると、どうでしょう班は中原街道の向って左側、つまり昭和大学病院などがある北側の歩道をずっと歩いているように見える。ということは、中原街道を渡っていないということで、この第二歩道橋も上がる必然性はないのである。行程から、第一、第二、どちらがロケ地であったかを判断するすべはない。
「2泊3日70km」の映像を観ると、一応の答えは出る。歩道橋が片側二車線の大きな道とそれよりは狭い一車線の道の交差点そばに立っていることがわかるからだ。第一の歩道橋そばにこうした交差点はなく、特徴が合致するのは第二歩道橋しかない。二つの交差点の写真を並べておくが、残念ながら大泉・鈴井両氏が立った方向のものは取り損ねてしまった。第二の歩道橋で、逆を向いて撮影したものだと思われる。
第一と第二の違いは、街灯の形状、舗装が第一はモザイク状の敷石形であるのに対し、第二はアスファルト様に見えるということだ。映像を観ると、街灯の形は第二に、舗装は第一に近い。ただ、ロケから十年以上も経っていればこれらには変化もあっただろう。舗装は撮影後に直されたものだと考えることにしたい。機会があれば、第二歩道橋の正しい向きの写真はまた撮りに行くつもりである。
さて、中原街道に入ってしまえば、あとは迷いようがない。ミスターが煙草を一服した地点が旗の台付近にあるはずなのだが、似たような地形は残念ながら見つけられなかった(映像からすると、結構五反田駅に近く、道が山手通りに向けて下りに転じるあたりではないかと思う)。
途中で古本屋の小川書店を見かけるが、早朝なので当然まだ開いていない。いくつかブックオフの前も通った。そのうちの一つが五反田駅前のブックオフで、ここは店名にplusがついている。古着や家電なども主要商品として扱う、最近の業容転換を狙った店舗の一つだ。とはいえ、一階の書籍売り場はそれなりに充実している。私はブックオフがあってもわざわざ入らないことが多いのだが、この五反田駅前店は覗くだけ覗くようにしている。この日も海外文学の棚が充実していることだけは確認した。だいたいは自宅にある本なので、わざわざ抜いてみたりはしなかったのだが。
五反田駅前が屋外では1日目最後のロケ地となる。駅北側、有楽街とバスロータリーを挟んで向かい合うあたりである。当時は金網で囲われていて、大泉・鈴井が立っている場所の背後には有名な立ち食い寿司があった。現在はその囲いは取り払われ、駅の拡張工事が行われている。また立ち食い寿司の跡地では、有楽町駅で2016年まで営業していた後楽そばが営業中だ。日本そばよりも焼きそばに人気のあった店で、閉まると決まったときは私も名残りを惜しんで食べに行った。それがこの場所で復活しているのである。
昼食の時間にはまだ早いが、せっかくなので再会を祝して食べてみた。並400円、大500円、並でも十分に多い。楕円形の皿の長い辺に後楽そばの文字、短辺の片側に紅ショウガのドームという様式美は以前とまったく変わらない。具はキャベツよりももやしが多く、肉はほとんど見当たらないが、これでいいのだ。中太麺のところどころが焦げており、ぱりっという歯応えが楽しい。有楽町のときよりもうまくなっているような気さえした。記憶という調味料で底上げされているのかもしれない。
ここからは地下鉄浅草線高輪台駅前まで坂を上れば、終点は間近い。グランドプリンスホテル高輪までの道順は、五反田側からだと古本屋の石黒書店の前を右に曲がってうねうね入る、としか説明のしようがない。うねうね入ると、国際館パミール、そしてその左奥に旧高輪プリンスホテルの正面玄関が見えてくる。「東京2泊3日70km」の第3夜冒頭のロケ地である。
というわけでやり残しを片付けてきた。次のロケ地追跡は、高輪台~お台場~浜松町~芝大門~六本木~日本武道館~両国国技館~浅草ビューホテルという道筋である。これも一日ではなく、たぶん二回に分割することになるだろう。近日中に、また。