小学生のとき、寝台特急さくらに乗った。真夜中に目が覚めて窓外を見たら、そこに家並みがあり、そんな時刻なのにいくつかの家には明かりがついていた。
当たり前だが、人が住んでいる、と思ったのである。日本中すべての土地に人が住んでいて、それぞれの暮らしをしている。それを全部訪ねてまわりたい、と思った。変な小学生だ。
7年前、縁があって同業の藤田香織氏と東海道歩き企画をやった。『東海道でしょう!』という本にまとまっているのだが、話をもらったときに頭をよぎったのが、あの寝台列車から見た町の光景である。あ、全部見られるのだな、と思った。その東海道で街道歩きの楽しさに開眼し、趣味になってしまったのである。
街道歩きには二通りのやり方がある。昔の旅人のように初めから終わりまで一気に歩くか、何度も足を運んで少しずつ前に進んでいくか。私は後者で、通勤型と呼んでいる。
何度も東海道に「通勤」していると、少しずつ風景が変わってくるのがわかる。
たとえば、小学校通学路の「飛び出し坊や」だ。びっくりしている小学生の絵と共に「飛び出し注意」の表示がある看板である。東海道も三重県の桑名宿から滋賀県の草津宿ぐらいまでは盛んで、小学校のPTAが量産したのか、辻ごとに設置されているのを見たこともある。ところが、あれは東日本ではあまり置かれていないものなのだ。
では「飛び出し坊や」の最東端はいったいどこなのか。最初の東海道歩きで疑問を持った私は、二度目の挑戦時には街路に坊やが設置されていないか、常に注意しながら歩いた。その結果、静岡県静岡市の府中宿西見附、つまり宿場の東端に入ったばかりの地点で最初の坊やを発見できたのである。以来、私の中では「飛び出し坊やの最東端生息地は東海道第十九番の府中宿」ということになっている。
街道歩きで気になるものの一つが、無人販売所だ。百円を入れて商品を持っていく、あれである。農家が余った作物を売っているのだろうが、時としてびっくりするような無人販売に遭遇することがある。
最近驚いたのが、静岡県島田宿手前で見つけたメダカ販売である。趣味で飼っているのが増え過ぎたのだと思うが、水槽一つ分を500円で売っていた。それで驚いていたら、今度はたい焼きの無人販売を発見してしまったのである。焼いたやつではなく、冷凍ケースから各自が取り出す方式だ。そうか、たい焼きも無人販売できるのか、と感じ入った島田宿であった。
(初出:「赤旗」2018年5月9日)