「新しく古本屋ができたんですよ」
とM君は言ったのであった。
本々堂で結構な収獲があったので、今日はもうこれでデキた(なつかしの田山幸憲『パチプロ日記』風に)と思っていたところにその一言である。
あと周るべきところは徘徊堂のみ。それも、六本松店と別府店のうち今日は別府店しか開いてないので、という話に続けて出てきた言葉であった。
「次で終わりじゃなくて、ラス前になるということだね」
と確認する。徘徊堂の前にもう一軒行くと。
そうです、とM君。彼も実際には行ったことがなくて、古本好きの友達から教えてもらったのだそうだ。最寄り駅は西鉄大牟田線の平尾である。二つあるらしい改札のうち、駅ビルの中に開いているほうから出る。駅から西南に向って歩くとすぐに31号線の道路にぶつかる。右に曲がって5分ほど歩き、最初の信号の手前にあるコーポ一本木というマンションがその場所であるという。前に立ってみたところ、普通の住宅用マンションである。この一室に古本屋が本当にあるのだろうか。
とりあえず行ってみることにする。二階だけど階段の位置がわからないのでエレベーターで上がる。部屋の前まで行ったところ、たしかに看板のようなものは出ていた。「ブックスビバーク」というのだそうだ。M君が手をかけて開けたら、中から綺麗な女性が出てきた。
あ、ごめんなさい。
いえいえ。
会釈をして女性はそのまま立ち去っていった。その人が店員さんなのではなくて、見送りにきていた男性がそうだった。「いらっしゃい」と言われる。靴はそのままで、とたたきに書いてあるので指示に従う。右を見ると靴箱の上には端本が並べてあった。値段がつかないからご自由にお持ち帰りください、ということらしい。
室内にはカタカナのヨのような形で本棚が並べられていた。ヨの下側、つまり部屋の右側にあたるところの棚はまだ値付けが間に合っていないのだという。真ん中の棚は漫画、ヨの縦棒にあたる部屋の奥に置かれた棚は雑誌がそれぞれ中心だ。主力となるのは部屋の左側ということになるだろう。
多いのは音楽関係の本、そしていわゆるサブカル系の本だが、アメコミやバンドデシネの大型本もけっこう置かれていた。ゆくゆくはこのへんが主力になっていくということなのだろうか。また、建築関係の本も多めだ。『ダムカード図鑑』には気を惹かれたが、これ以上新しい趣味を増やすのは無理なので自重した。集めるなよ、ダムカード。小説は少なめだが、尖鋭的な海外文学も少し置いてある。できればこっちも増やしていってもらいたいな。
店主さんはDJでもやってそうな風情の男性だ。伺うと、この10月に開店したばかりなのだという。室内の初々しい感じを見るとうなずける。特に欲しいものはなかったのだが、いや、正確に言うと本当に欲しいものは旅先で買っちゃだめ、というような大型本だったので、どうしようか少し迷った。せっかく開業したばかりのところに伺ったのに、空手で帰るのは申し訳ない。見渡すと、河出文庫の水木しげるエッセイ『なまけものになりたい』があった。しめた。これは持ってないか、家にあったとしてもどこかに入り込んで見当たらない本である。旅のお供で読もう。二人で一冊というセコな客で赤面の至りではあるが、これで勘弁していただく。福岡に来たときは、また寄らせてもらいます。
後日確認したら公式ツイッターもあった。そこに記載されていたので、住所も書いておく。現時点では営業日が固定されていないようだから、ツイッターを参考にすること。
「ブックス ビバーク」福岡市中央区平尾2-2-22MAYコーポ一本木203
お店が開いている日の営業時間は12:00-20:00とのこと。