7月某日。
この日はまだ青春18きっぷの期間には入っていなかったのだが、所用があって静岡県まで来ていたのであった。友人が引っ越したので、そのお祝いを兼ねて遊びに来たのである。目的地は磐田市なので、一人であれば間違いなく、沼津~清水~草薙~静岡~袋井と続く古本屋行脚の日程を組むが、珍しく三人旅なので自重。三島から沼津までちょっとだけ歩いて東海道欲を満足するに留める。沼津では一応、開いていた平松書店を覗く程度に。
磐田には四ヶ月前に来たばかりである。ここは高台の上に見附宿があり、そこからだらだらと続く坂を下ってくるとJRの磐田駅にぶつかる。途中には国分寺跡などもあって観光施設には事欠かないと思うのだが、メインロードとも言うべきこの坂道がなんとも静かなのだ。慎み深いんですかね、磐田の人は。そのわりにはこんな店もあるのだけど。
友人宅に一泊。帰りの便を決めたので12時に磐田駅を出ようか、という話になった。
「それまで、どこか行きたいところとかある」
「ふ、古本屋をっ」
というやりとりが古本屋にまったく関心のない人との間であったと思っていただきたい。結局古本屋の前で落としていただき、他の人は近くのカフェでお茶を、私は山田書房で探書のひとときを、ということになった。時間は30分強しかないので、急いで見なければ。
引き戸に手をかけると鍵がかかっている。中から人の好さそうな店主が笑いながらやってきて解錠してくれた。まだ開店したばかりだったのかもしれない。山田書房のことは以前にも書いた(と思っていたのだが、もしかすると書き忘れているかも。改めて袋井~磐田編は上げます)。郷土資料関係が充実しているのと、古いコミックや芸能関連書も侮れないものがある。
古いコミックは帳場前に揃いと虫プロコミックスなど珍し目のものが置かれているほか、入って右奥にバラのものが置かれている。ここで発見したのが影山朗『素敵に朝帰り』であった。成年コミックである。影山朗作品を初めて見たのは「漫画ラブパンチ」か「劇画デカメロン」だったと思うのだが、他の作家とは明らかに線が違うことにびっくりして、これからはこの人の時代になるのでは、と思ったのであった。ならなかったんだけど。現在も景山ロウの筆名で描いておられるが、あのころの三流劇画誌で影山朗が天下を取るには、まだまだ周囲が荒っぽすぎたのかなあ、などとときどき思う。拙宅にある影山朗はエースファイブコミックスの『ももこの唇』だけなので、これで二冊目。
郷土史関係の棚では多すぎて目移りがしてしまい、結局『姫街道ものがたり』を買った。見附から御油までの脇街道を姫街道と呼ぶ。今切の渡しを船で行くのを嫌がった女性が陸路を選んだからだというのが名の由来である。てっきりそこの本かと思ったら、和宮が降嫁した際に通った中山道の本だった。ドラマでやったときにでも作られたのだろうか。まあ、いい。中山道もそのうちに行くのだ。もう一冊はキネマ旬報1996年の別冊で『THEルパン三世FILES ルパン三世25年全記録』である。押井守監督が自分が撮るはずだった幻のルパンについて語るインタビューが入っているのが貴重なのである。このインタビュー自体はどこかに再録されているかもしれないが、御大モンキー・パンチや大塚康生、山田康雄と並んで収録されているというのが大事だ。ちょうど映画「DEAR OR ALIVE」が作られたときの本であり、それまでの制作クレジットがすべて載っている。
時間切れになって店を出ると、ちょうど迎えの車が来た。ここから静岡駅に戻り、高速バスでえっちらおっちら帰るのである。