8月某日
台湾のお話、続き。
高雄市に行くことが決まったとき、事前にネット検索してどうしても行きたいと思った場所が一つあった。その名を猫手書店という。
高捷電鉄橘線の終点から一つ手間、鹽埕埔(真ん中が環境依存文字だと思う。土偏に口を書いて下に壬)駅、その1番出口の正面、道を渡ったところのビル二階にある。正式名称は猫手Book&Shop日文二手文芸書店という。昨日も書いたとおり、二手書店が台湾では古本屋のことだから、ここでは日文、つまり日本語の古本を専門に扱っているのだ。台湾で日本の本のみを売る店とは。
雑居ビルの二階をほぼまるまる使ってお店は営業している。予想とは違って、ゆったりとした空間である。ガラス扉を開けて入ると、左手にカウンター式の帳場、右手にソファーなども置いてあるグッズ売り場があり、トートバッグなどの品を置いてある。後で確認したところ、旧い高雄市の地図などを元に作成した、この店オリジナルの商品なのだという。
カウンターでパソコンに向かって作業していた男性が店長だろう。日本から来ました、台湾でこのお店に来るのを楽しみにしていました、と話しかけると、手を止めて親切に応対してくれた。ご主人は国分寺にある大学の大学院に留学され、学位をとられた。滞在中は、主として中央線沿線に住まれ、そのときに知り合った女性と結婚されたとのこと。お店も奥様がデザインの原案を書かれたのだそうだ。店に置いてある本は日本人旅行客が売っていったものかと思っていたが、そうではなくてご主人曰く「輸入」とのこと。ご自分で行くか、そういう業者に頼むかして、買い付けているということだろう。
お礼を言って店内を見て回る。帳場からすぐ前のところにガラス製の陳列棚があり、大型本などが置いてある。驚いたのは昭和の『アニメージュ』がたくさんあったことで、当時は中学生だった自分としては非常に懐かしい。その横にちょっと珍し目の一冊があった。『魔女の宅急便 アニメージュ特別編集ガイドブック』である。映画公開時に作られたもので、宮崎駿弟のインタビューなどが載っている。ロマンアルバムが別にあるが、これは中綴じで、いかにも雑誌増刊という体で作られたものだ。これは買って行こう。
その棚の奥、右壁側が大型本や雑誌とサブカル系の本が多くあるコーナーで、なぜか雑誌の『丸』がたくさんあった。サブカル系の棚には同業・細谷正充氏の著書も。自分の本が売っていたら買って、これが私の本です、と見せたかったのでちょっと残念。
奥は開放的な窓で、その手間には古いプラモデルをたくさん置いた棚がある。これなんかもマニアは嬉しいところだろう。左側の壁奥に文学書、その手前に美術書、そして趣味の本や歴史書といった並びである。古典芸能に関する本などもある。落語の文庫もあるのだが、これはむしろ台湾で日本に関心を持ってくださる方のために置いていきたい。前述の『魔女の宅急便』本のみを手にしてレジに向かった。
本を見せると、ああ、これですか、魔女の宅急便は今、ロマンアルバムも少なくなっていますね、と呟く。たぶんご主人、アニメ好きでしょう。それも昭和の。
お金を払って、気になることを聞いてみた。
「あの、雑誌の『丸』がたくさんあるんですけど、あれはなぜなのでしょう」
「私、プラモデルが趣味ですから。『丸』はたいへんいい資料です。軍人のインタビューなどが以前はたくさん載っていて、参考になりました。最近のものはそうでもないですね」
なるほど、そういうことか。次に高雄に来るときも必ず寄りますから、と固い約束をして店を出る。橘線の地下鉄に乗りながら、駿兄の作る料理では何が上手かったか、という宮崎弟のインタビューを読んだ。