某月某日
話が前後したが、青春18きっぷを使った小旅行の三日目である。大阪の阿倍野区民ホールで、浪曲親友協会の新春大会が開かれる。これに行くことにした。所用のため、帰りは新幹線を使わざるをえないのだが、片道だけでも青春18きっぷで行くのだ。調べてみると、だいたい9時間で着くことがわかった。浪曲大会は午後1時に始まるので、当日移動では間に合わない。前日に大阪に入ることにした。
ここで悩みどころは、一泊をどこでするかという問題である。別に大阪泊まりにせずとも、名古屋で目ぼしい古本屋を回ってから行くという手もある。だが、調べてみたところ、松の内でほとんどがお休みということがわかった。大阪市内にはいくつか確実に開いている店がある。よし、では大阪に一泊だ。
利用したのはこんな乗り継ぎである。
横浜発沼津行5:48~7:22三島着
三島始発静岡行7:29~8:29静岡着
静岡発浜松行8:31~9:43浜松着
浜松始発新快速大垣行9:44~11:47大垣着
大垣始発米原行12:12~12:46米原着
米原発新快速姫路行12:50~14:13大阪着
大垣まで乗り継ぎ時間がほとんどなくて、トイレに行きたくなったら車内利用しかないというのが難だが、無駄なく行くことができる。車内では読書が非常に捗った。自主カンヅメである。
大阪駅に着いたら、まず阪急梅田駅を目指す。阪急古書のまちが開いているか、確認するためだ。しかし、予想通りお休み。明日からの営業だという。まあ仕方ない。梅田駅から御堂筋線に乗って南下、なんば駅を目指した。かつてはここに大阪球場があり、その一画がなんばん古書街になっていた。何度か訪れたことがあるが、天井の高いスタジアム建築に古本屋がひしめいている様子は異世界のようであった。地上に出て、その大阪球場があったあたりを右に見ながら南下、しばらく行ったところで左折すると角に兎月屋書店がある。店頭に雑誌などを置いた均一棚が出ている。おお、やっている、やっている。
中に入ると映画ポスターの群れに出迎えられる。『めぞん一刻』ものなどもあって心が激しく揺れ動くが、ここは旅先で嵩張るポスターを持って歩くのは難である。だいたい家に置き場がない。左にファミコンカセットなどのゲーム関係、レジ前を通って右奥に行けば、ゲーム攻略本からコミック、アニメ、タレント本、オカルト、軍事などなど、さまざまなジャンルのサブカルチャー系の棚が百花繚乱で待ち受けている。ああ、ここに来てみたかったのだ。
程なく棚で発見。『ケーシー高峰のホットポルノ』は日本文芸社刊。1971年初版だから、おそらくはこれがセニョールの初著書だろう。私が持っておくべき本である。値段は2千円。この本ならば仕方ない。よし、大阪にはケーシー高峰を買いに来たのだ。
アニメ棚でさらに発見があった。小学館のムック、少年サンデーグラフィック・シリーズで高橋留美子原作OVAの『ザ・超女』と『笑う標的』だ。『ザ・超女』は脚本の金春智子さんと高橋留美子さんの対談が入っている。これ、発売当時に気が付いたが買わなかったのだ。『笑う標的』のほうは存在すら知らなかった。出ていたのか。いずれも持っておかなければならない本である。
お金を払って店を出る。その近くのビル一階にあるのが南海なんば古書センターで、元は山羊ブックスと水成書店の二軒が入っていたようなのだが、現在後者はなくなってしまっている。山羊ブックスは元気に営業していた。自動ドアから入るとすぐのところに均一の台があり、そこから点々と店まで続いている。まるで客を中に呼び寄せるための撒き餌だ。店は入口と平行に棚が置かれている形式で、手前が文庫や新書で、奥に行くにしたがって文学や芸術など大判の本になっていく形式である。芸術棚には歌舞伎本なども多く、思わず見入る。文庫棚も充実しており絶版ものが多い。ハヤカワ・ミステリのコーナーで、E・S・ガードナーでは比較的珍しめの『おせっかいな潮』があったので拾っておくことにする。おそらくダブりなのだけど。よし、二軒目に入れた。
店外に出てしばらく考える。ここからどこに行くべきか。青春18きっぷがあるのだから、地下鉄で鶴橋あたりまで出てしまい、環状線沿いを周る手がある。もしくはもっと古本屋が密集している地帯を狙うか。時刻は午後四時に近くなっている。新年ということもあり、どこもそんなに遅くまでは営業していないだろう。ここが思案のしどころだ。(つづく)
※今回非常に頼りにしたのが古本屋ツアーこと小山力也さんの『古本屋ツアー・イン・京阪神』だった。この本がなかったらひさしぶりの大阪で手も足も出なかったと思う。小山さん、ありがとうございます。