某月某日
大阪のなんばで次の行く先を考えていたのだが、鶴橋の古本屋がお休みということがわかり、天神橋筋を攻める方針に切り替えた。まずはなんばから北上して、もしかして開いているかもしれないお店を探していこう。
まずは南海なんば駅付近に戻る。天地書房道具屋筋店の前まで来るが、閉まっている。さらに上って宮本書店、イサオ書店も見てみたが、いずれもお休みであった。交差点付近にあるはずの日本橋ブックセンターは見当たらず。私の探し方が悪かったのかもしれないが、もしかすると無くなっていないだろうか。ここで少し南に戻って日本橋駅から堺筋線に乗る。扇町まで行くのである。3号出口は14号線、天神橋筋の大きな通りになっているが、そこから一本入れば、延々と続く天神橋筋の商店街である。松の内だが人通りが多いのは、天満宮への参拝客があるためだろう。この道を下っていくと、甘酒売りなど屋台が目立ってきて、やがては見事に縁日の盛りになった。
その商店街にぶつかる手前に書苑よしむらがあったが、残念なことにお休みであった。しかし商店街に合流したところにある栞書房はやっている。ようやく巡り会えた営業中の店だ。店頭には均一台が出されて気安く入れる外観、中に入ると写真集などを手始めにだんだん濃厚な雰囲気になっていき、歌舞伎関連などの芸能本も多く発見できた。
ここから東に行ったところにジグソーハウスがあるはずである。ジグソーハウスは早期からミステリー・SF・幻想小説などの通信販売を手掛けていた業者で、一時期は梅田の近くに店舗も出していた。そのころに一回訪問したことがあるが、最近はこの天神橋筋近くに移転したとか。しかし、ホームページを見ると昨年からさらに移転したとかで、ネット販売中心の事務所になるとも書いてある。一応行くだけ行ってみようと『古本屋ツアー・イン・京阪神』記載の住所を訪ねてみたが、該当するビル名はなし。スマートフォンでホームページを検索して見たところ、やはり住所が変わっていた。その番地にあるのは大きなマンションで、どうも店舗を開いている様子はない。おそらく本当に通信販売専門になったのではないか。ここまで来た、という意味で建物の写真だけ撮って引き返した。
栞書房の位置からまた下っていく。すぐに発見できたのが矢野書房だ。音に聞こえた名店で、なるほど店頭から縦の櫛形に並べられた書棚は細かく分類が行き届いており、今にも何か発見してしまいそうな佇まいがある。この店の特殊な点は、右半分がジャニーズグッズ専門になっているところで、間口の看板もそのように表示されている。門外漢ゆえわからないが、きっと需要があるのだろう。そのジャニーズグッズ専門エリアの手前にミステリー、SFなどの文庫新書コーナーがある。値付けはしっかり目だがよいものが多い。『寂しすぎるレディ』を発見したが値段が少々お高めなので今回は置いて帰ることにした。さらにその奥にガラスケースがあり、ここは正真正銘の稀覯本ばかりが陳列されている。目の保養である。その前には縦差しに黒っぽい本が置かれている棚などもあり、向こう側が帳場である。店主は、どなたかと長電話の様子であった。聞こえてしまう内容からすると、同業者の消息についてお話されているらしい。聞こえても西の業者のことゆえ、私にはよくわからないのだが。
結局ここでは高いものは買えず、均一棚で持っていなかった山口瞳だけ求めてお店を出た。時間があるときにもう一度来たいものである。
矢野書房の斜め向かいに天牛書房天神橋店があるが、閉まっている。明日からの開店だ。実はここが悩みどころで、二店ある天牛書房のどっちかに来たいのだが、ここか江坂店か、一方しか行く時間がないのだ。どちらも良店であるのはわかっているので、もどかしい。
天牛書房の向かいにあるおかげ館という施設に、杉本梁江堂が入っている。事前の確認で、ここは古典芸能系が強い店だとわかっているが、残念ながらお休みである。梅田古書のまちにも店舗があるので、明日はそっちを見るか。おかげ館にはハナ書房という店がもう一つ入っているはずなのだが、こちらについては閉まっている建物の外からはわかる情報がない。いずれにせよ、後日また改めて来ることにしよう。
おかげ館からしばらくまた南に下ったところに駄楽屋書房。ここも開いていた。この先には駒鳥文庫があったのだが、2016年に店主移住のために完全閉店してしまっている。よって、ここが終点ということになるだろう。店頭から中まで均一本の山が築かれており、大衆店の印象があるが、先ほどのしおり書房以上に通路が細い内側に入ってみると、文学・美術書などを中心に興味を惹かれる本が多数置いてある。人通りの多さに比例して混雑していたので、邪魔にならないように素早く見て失礼する。ここも通いがいのありそうな古本屋だ。
たぶん無駄足になるだろうな、と承知しつつもさらに南下する。くだってくだって、旧駒鳥文庫跡も行き過ぎたところのビル一階が、先ほどの矢野書房の姉妹店、天満橋店だったはずである。住所を頼りに行ってみたが、ビルはもうその形跡すらなく、跡には飲食店が入っていた。よし、これで天神橋筋の探索は一応終わり。天満駅近くのエンゼル書房と、マンションの一室で営業しているというメガネヤには足を延ばすことができなかったが、後者はお休みだと確認した。いずれにせよもう一度来ることになるだろう。
手元にある1988年版の『全国古本屋地図』を見ると、大阪市内は大きく様変わりしたものだと思う。同書の区分はキタが梅田、西天満、阪急界隈、天六周辺、千林・今市、ミナミが島之内、道頓堀・難波・千日前、日本橋、なんばん古書街、船場・天満橋、上六、アベノ、田辺というくくりで、あとはJR環状線沿い、西成・港・此花・大正区となる。ここに名前の挙がっている店のうち、2016年刊行の小山氏の著書にも出てくるのは、阪急古書のまち入居組を除けば、天六の青空書房・高山文庫、千林の尚文堂書店・千賀書房、心斎橋・中尾書店、千日前・イサオ書店、日本橋の日本橋ブックセンターと宮本書店、船場の中尾松泉堂、上六から道具屋筋に移転した天地書房、天王寺の古書さろん天地、新今宮のパーク書店と、こんなところではないだろうか。もちろん『全国古本屋地図』はすべてを網羅できているわけではないし、小山氏著書もまわりきれていない店もあると思うが、意外に少ないという印象である。1995年の震災の影響もあっただろうと推察する。考えを変えれば、多くの店が平成になってからできて今まで続いているということで、新陳代謝が行われているということでもある。大阪の古本屋がますます栄えることを祈ってやまない。
※今回非常に頼りにしたのが古本屋ツアーこと小山力也さんの『古本屋ツアー・イン・京阪神』だった。この本がなかったらひさしぶりの大阪で手も足も出なかったと思う。小山さん、ありがとうございます。