杉江松恋不善閑居 自粛生活おしまい「読書はあなたを助けてくれましたか」

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5人目の旅人たち:「水曜どうでしょう」と藩士コミュニティの研究

5月26日

本に関するアンケートはこれでおしまい。最後は、対コロナ・ウイルスの自粛期間、読書は心の慰めになったか否か。回答は388だった。

「家にいる際、読書が最も気分転換のできた趣味だった」26.5%

「読書もしたが気を紛らわすことが他にも必要だった」37.1%

「気になることが多く、平常時より本は読めなかった」21.1%

「自粛期間中、ほとんど本は読んでいない」15.2%

普段よりも本が読めなかったという人が21.1%、自粛期間中はほとんど読んでいないという人が15.2%、これは極めて当然のことだと思う。衣食住足りて礼節を知る。生活の礎が揺らいでいるときにはやはり暮らしのことが気になるものだ。ましてや未曽有の事態であって、これからどうなるのかという不安で心は穏やかではなかった。普段は利用できている公共施設やサービスが使えず、いつもよりも労苦が多かったという方もいらっしゃるだろう。とてもとても趣味どころではなかった、という方に心よりお見舞い申し上げたいと思う。

岡田靖史さん「本の内容によっては読むのがつらくて読めないものがありました。普段通りというわけではなかったです。震災(阪神淡路も東日本も)の際にも同じようなことがありました」、カルロス矢吹さん「小さい子ども含め、家族全員家にいるので、とても読書どころではありませんでした」、ぎすけ@メタル酔い「過去には辛いときに本を読んで気を紛らわしたりできたのですか、今回は、何故か殆ど読めませんでした。読み始めるのに意外にエネルギーがいるのかもしれません」

普段よりも読書量が減った、という方の中には雀坊。/飯森大さんのように「読書は通勤時間中というのが30年近くの習慣になっていたので、その分の読書量がごっそり減りました。家でも本は読みますが、今回はあんまりそういう気分になれなかったですね」というご意見が多かった。通勤時間というのが読書人の一日の中でいかに大きな比率を占めているかということだろう。mashirokifujiさんのように「感染者は殆どおらずいろんな噂だけが飛び交う状況で毎日を過ごすだけで神経的に参っていました。普段実物を手に取って選ぶ生活をしているためネットで見ていても充足感が得られず、それもストレスの一因となりました。自分的には量がぐんと落ちました。電子本を試す機会にはなりましたが」、リアルの書店などに接することができないために意欲が落ちたという声も。

逆に、読めたという声も多かった。1と2の回答が混ざっていると思うが、以下。出淵平吉さん「気分転換のつもりもなく、外出しない大義名分にもたれかかり大手を振って本を読んでいました」、tkmr katoさん「休日に外に出られないのは思ったよりもストレスでした。本に助けられました。翻訳ミステリー大賞の発表前に候補作をすべて読んだのは今回が初めてで、開票をいつもに増して楽しく見られたのはコロナ禍での数少ない良い思い出として残りそうです」、Maiko Sekiさん「読書とドラマ観賞に没頭するのが自粛生活で何よりもストレス解消でした。のめりこみやすい性格なので、現実を忘れられるのがリフレッシュになっていたようです」、かえるちゃんさん「読書は常にトップ事項で、これまで何がおこっても変わらない事でした。今回もそうでした。それは私にとって、読書が何よりも心の平安のために必要だからです。いつでも目の前の本に支えられております」ほか。このアンケートが気散じの足しになったと書いてくださった方も多かった。御礼申し上げます。

本を読むことは楽しいが、それが可能なのは現実とは違うもう一つの世界に入り込めるからだ。現実が惨憺たるありさまのとき、本に救いを求めることができる人は幸せだが、誰もがそうとは限らない。本が好きだからこそ、読書をきちんと楽しめるように現実もなんとかしないといけないのだな、と今回の騒動を俯瞰しながらずっと思っていた。経営しているお店がつぶれるかもしれないというときに本どころではないだろう。

本、あるいはその他の趣味は気持ちの平穏をもたらしてくれる。ただ、その準備してくれる世界にたどりつけるまでには時間がかかる場合もあるということだ。このアンケートを始めたのは、ちょっと本にも入る気分じゃないよなあ、という人のために準備運動のような段階を用意するという意味もあった。いつもはそういえばどうしているんだろう、と本について考えることで、普段の暮らしがたぶん見えてくる。日常から非日常に入るための橋渡しというか、いつもと同じ日常を自粛期間という非日常の中にもぺろんと延ばしてみようということだった。広田すみれさんがTV番組『水曜どうでしょう』を題材にして書かれた社会心理学についての本『5人目の旅人たち』にヒントをいただいた部分も大きい。だからこのアンケートは、5月25日の緊急事態宣言解除と共に終わりなのだ。

私のやっているような書評の世界は、いわば本の間接部門である。直接物語を書くのが生産部門だとしたら、それ以外に物流だとか資材だとか法務だとか経理だとか、さまざまな部門があって成り立っている。私は企業勤務時代、営業が長かったが人事という間接部門についてもそれなりにがんばった。だから今回は間接部門なりのご奉公をしたつもりである。

本を作り、それを読者に届けるために努力しているすべての部門の仲間たちに感謝しつつ、平和に読書を楽しめる日々が一日も長く続くことを願う。

自粛生活おしまい。

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