某月某日
浅草木馬亭に駆けつけ、六月公演の初日を聴く。
玉川奈々福さんの最初の弟子、奈みほさんが木馬亭初出演を果たした。本来であれば四月四日がその予定だったのだが、コロナ禍によって四月二日で公演が打ち切りになったため、やむなく延期された。ちなみにその四月二日には天中軒雲月門下の晴月さんがその日を迎えた。予定になく急遽であった。驚いたのはその日をもって彼が廃業してしまったことである。本人の意志を聞いての対処だったのか。舞台を下りてきた彼が荷物を持って外に出るとき、木戸ですれ違ったのだが、思えばあのとき、まだ終演していないのにいちばんの若手が先に帰るのはおかしいなという考えが頭の隅をよぎったのである。どこで何をしているのか、元気であの屈託のない笑い方をしているといいのだが。
阿漕が浦 玉川奈みほ・澤村豊子
花の若武者那須の与一 東家美子・馬越ノリ子
長兵衛鈴ヶ森 東家孝太郎・水乃金魚
慶安太平記牧野弥右衛門の駒攻め 玉川奈々福・澤村豊子
仲入り
三味線やくざ 鳳舞衣子・伊丹秀敏
天明白波伝八百蔵吉五郎 神田阿久鯉
別れ涙の花舞台 玉川こう福・水乃金魚
慈母観音 東家三楽・伊丹秀敏
奈みほさんの阿漕が浦は元気で初々しかった。師匠初舞台の着物を借りての一番とのこと。よかった。がんばってください。その師匠・奈々福さんは五月の休演のためできなかったネタを。四日にもう一回出番があるので、そのときは六月のネタをかけるとのこと。こちらは小屋中に響く大音で、やっぱり寄席で声を出さないと調子が出ないと笑った。
この日の儲けは孝太郎さんの長兵衛鈴ヶ森。やっぱり侠客ものが合っている。泥棒と幡随院とのコミカルなやり取りが受けていた。
仲入り後に登場した阿久鯉さんは、お客さんの待ってましたの声に、こちらこそ待ってましたと返して苦笑いした。というのも、前回中止になった四月三日の出番が阿久鯉さんだったからで、二ヶ月越しの出演である。この調子で定席公演がずっと続けられればいいのだが。
帰りに地球堂に寄るも、早くも店じまいに入っていて中は覗けず。しばらくは午後四時閉店にするのだろうか。慣れない遠出で疲れてしまい、この日はまったく仕事にならなかったが、これは仕方あるまい。とりあえず木馬亭の初日が開いて一安心した。