某月某日
浅草木馬亭6月公演五日目。本日は初の澤孝子主任回である。
江戸の初雪 東家千春・玉川みね子
継母の誠 富士綾那・玉川みね子
清水次郎長伝 お民の度胸 澤雪絵・佐藤貴美江
心に灯火を 天中軒月子・伊丹明
仲入り
不破数右衛門の芝居見物 玉川太福・玉川みね子
大名花屋 神田あおい
稲川次郎吉 鳳舞衣子・伊丹明
竹の水仙 澤孝子・佐藤貴美江
ネタ下ろしが「心に灯火を」で、故・伊丹秀子の得意ネタ。貧しい長屋に住む子供を保育士の山田先生が気遣うという内容で、社会福祉・保育問題に冷たい今の政権、特にしもじもの生活には「こち亀」以外まったく関心のない副総理にお聴きいただきたい内容だ。アンパン15円のこの時代から現在に至るまで、こういう都会の貧というものは残っているんだってば。先日の富士琴美「杉野兵曹長の妻」にしろこのネタにしろ、明治から昭和にかけてを舞台にした現代人情ものって、考えてみたら浪曲でしかもう聴くことはできないのである。若い人は戸惑うかもしれないが、直球の人情を歌ってもいいんじゃないですかね。私は支持する。さすがに「靖国の母」あたりになると厳しいのだが。
「お民の度胸」は前に火曜亭で、雪絵さんのを聴いている気がするのだが、別の方かもしれない。前日の玉川奈々福版は廣澤虎造演出が基本で、こちらはマキノ雅弘監督映画を大西信行氏が脚色したものとのこと。奈々福版はお民の女心を描くことが主になっているのに対し、こちらは石松の最期までを追うのが目的になっている。だからお民も若干可愛らしいのである。思わぬ聴き比べが二日間でできて、得をした気分でございました。
「不破数右衛門の芝居見物」で4月2日の「任侠流山動物園」以来の玉川太福木馬亭復帰。粗忽者が巻き起こすどたばたを描いた、義士銘々伝でも笑いの多い話だが、役者の演じた浅野内匠頭が花道に登場したのを本物と勘違いし、数右衛門がいきなり平伏する場面が可笑しいながらもその忠心を思って涙がにじむ。悲しくって少しばか、というエンターテインメントとしては抜群の匙加減、よくできたネタだと思う。
「竹の水仙」はもちろん講談・落語にもある左甚五郎旅日記からの一篇。「こういうときですから楽しい気持ちになるお話を」と前置きして始められたとおり、ケレンが多くて終始笑い声の絶えない一席であった。そういえば佐藤貴美江さんはこの日が初出演か。
帰りに気が向いて国際通りをぶらぶら歩き、入谷駅手前の古書サンカンオーに。一般書よりもコミック系が強く、入口以外の棚はほぼ在庫でつぶれてしまっている店である。入口近くにも萌え系の同人誌や雑誌付録・グッズなどが積みあがっている。そんな中で長谷川伸の随筆集『石瓦混淆』を見たら買うしかないでしょう。110円であった。
さらに国際通りを北上して昭和通りに入る。都電始発の三ノ輪橋駅とは指呼の間のところにあるのが古書ミヤハシだ。ここはちょっと見ただけだとあまり特徴のない店なのだが、棚を奥に踏み込むと時刻表バックナンバーをはじめ、鉄道関連書がずらりと並ぶ専門古書店に顔が変わる。絶対持っているような気がしたが、辻真先の鉄道エッセイ本を買い求める。
明日は土曜日、込み具合によっては遠慮して帰るかもしれないが、一応浅草にはいってみるか。