某月某日
本日より木馬亭七月定期公演である。二、三日目出演予定の天中軒雲月さんが体調不良でお休みが決まるなど、少々心配なこともあったが、twitterなどは特に問題なく更新しておられたので、大事を取られたのだと思うことにする。
木馬亭に行ってみると、常連のみなさんのお顔が見えない。平日だということもあるが、前日まで渋谷ユーロスペースで浪曲映画特集であったので、そちらに行かれて今日はお休みだったかという気もする。
左甚五郎伝 京都の巻 東家志のぶ・伊丹英幸
ベートーベン一代記より歓喜の歌 港家小ゆき・沢村豊子
人情佐野山 花渡家ちとせ・沢村豊子
幡随院と桜川 イエス玉川・玉川みね子
仲入り
無法松の一生 鳳舞衣子・伊丹秀敏
わんぱく家光 神田山吹
花売り娘 大利根勝子・玉川みね子
良弁杉 東家三楽・伊丹秀敏
客席を千鳥状にして半分しか座れないようにすること、基本的には飲食禁止、場内のアイスクリーム販売もお休み、といった条項は六月と同じなのだが、新たに「待ってました」「たっぷり」などの掛け声も遠慮いただきたい、という旨の場内放送が入るようになった。この点六月は曖昧で、日によって掛け声があったりなかったりという感じだったのだが、徹底することになった模様である。
そのせいもあったのだが、ちょっと不思議な客席であった。演者が舞台に出てきても拍手が起こらないというのは、遠慮のし過ぎのような。もじもじしているような感じで、初日ということもあったのだろうか。
個人的には「花売り娘」がとにかく儲けもの。詳しい方にお聞きしたところでは、一門を越えて昔はよく演じられていたというし、大利根勝子さんはよく掛けられているということだが、私は当たったことがなかったもので。題名から察せられるとおり可哀そうな子供話だったが、こちらの予想をはるかに裏切るような展開である。花売り娘が偶然実の母親に会うというだけでも驚きだが、そのあとも意外なことが起きまくる。浪曲ならではの現実を超えた世界である。始めの歳時記を織り込んだ外題付けが見事だったので、あらすじなんてもうどうでもいいという気持ちで聞き惚れた。
初めてといえば伊丹英幸さんの三味線も間違いなく木馬亭ではこれまで聴いたことがなかった。日本浪曲協会のプロフィールには木馬亭初演の項目が書かれていないのだが、いつから上がっておられたのだろうか。
本日のお目当ては東家三楽さんとイエス玉川さん。イエスさんの「幡随院と桜川」は鈴ヶ森のくだりまで到達せず。相撲取りの桜川が小田原の宿場で財布をすられたのが縁で幡随院長兵衛と知り合うのだが、最後は「このあと鈴ヶ森でもらったばかりの六両二分八文を山賊に取られる」と舞台を下りられたので、初めて聴いた人はなんと金を盗まれてばかりの相撲取りだろうと思われただろう。ちょうどいいところで切るのもまた浪曲らしい。
七月公演は、二日目が所用あって行けないことがわかっているので、あとはなるべく木馬亭に足を運びたい。八月公演の予定を見たら三日に神田伯山が顔付けされていた。今の六十人入れない木馬亭に伯山か。行列ができることは必至だが、八月のさなかなので熱中症が心配である。