某月某日
浅草木馬亭にて七月定期公演の三日目。二日目は自宅にエアコン取付工事の方がいらっしゃったので、行けなかったのだ。二日目、三日目と天中軒雲月さんに代演が出ていて、この日は澤順子さんがトリ。何を掛けられるのか興味津々であった。
恒助丸の由来 天中軒すみれ・佐藤貴美江
陸奥間違い 富士綾那・沢村豊子
青龍刀権次 ニセ札 玉川ぶん福・東家美
御薬献上 花渡家ちとせ・沢村豊子
仲入り
弥作の鎌腹 東家一太郎・東家美
煙草屋喜八 堅物次郎兵衛 神田紅純
侍子守唄 港家小柳丸・沢村豊子
おれの足音より~素麺を煮る内蔵助 澤順子・佐藤貴美江
期せずして浪曲八本中三本が忠臣蔵ネタとなった。ちとせさんが少年時代、順子さんが大石主税誕生時の内蔵助だ。「素麺を煮る内蔵助」は火曜亭でたぶん聴いたことがあったが、広い会場、しかもトリでは初めて。静かでそれほど派手な話ではないのだが、興行のおしまいにはこういうネタもいいな、と思った。親子四代の母系のつながりを、子守唄で表現していて優しい感触がある。ちとせさんのやんちゃな内蔵助もよかった。これも初めてではないが、たしか木馬亭で聴いたのかな。この日いちばんの盛り上がりになったのが神崎与五郎の兄を主役にした「弥作の鎌腹」で、死別をテーマにした忠臣蔵外伝らしいお話。一太郎さんも熱演であった。この話、いつ聴いても代官が軽率で、雉も鳴かずば撃たれまい、と思う。
陸奥間違いは玉川系とは節が違う。実はこのネタ、玉川奈々福さんのガチンコ浪曲講座の教材だったので、一時期は玉川福太郎を毎日聴いていた。その教室では沢村豊子さんに関東節で弾いていただいて、私もほんの始めの部分だけ唸ったのである。同じネタを違う節で豊子さんが弾いておられる、と感慨も一入であった。話はほぼ暗記しているので、綾那さんが25分バージョンにはしょっている箇所がよくわかっておもしろい。
前読みのすみれさんは刀匠伝からの一席だが、節を頑張っていてこれもよかった。今はどうしても師匠の真似になるかもしれないが、修業期間なのだからそれでいいのである。いい声だった。「侍子守唄」は今のところ小柳丸さんでしか聴いたことがないネタ。このあとどうなるのか、と気になるところでいつも切られてしまうのだが、後段はあるのだろうか。港家系のネタだと思うのだが、録音があれば見つけてぜひ聴きたい。
そして本日のお目当ては玉川ぶん福さん。実はこれが初めてで、今まで巡り会わせが悪くて、なんべん木馬亭に行っても聴けなかったのである。感無量。そして、「壺坂霊験記」がかかることが多いと聞いていたのが蓋を開けてみれば「青龍刀権次」だったのは大儲け。おお、玉川系のお家芸だ。ずいぶん賑やかで腰の軽い権次だが、考えてみたらこのキャラクターは七年の懲役明けなのである。タフだなあ。
初日の遠慮した空気ではなく、この日はちゃんと拍手で盛り上がった。よかった。これなら掛け声はなくても別に大丈夫。