某月某日
日曜日ということで結構な入りであった。人が多くなると困った客が出るのも仕方のないことで、とある演目で節がいちばんいいときに何事かを大きな声で話しながら通路に出ていった人がいたには鼻白んだ。この先一生、大事な領収書の隅に油染みがつく呪いにかかりますように。
稗搗物語 東家千春・馬越ノリ子
魚屋本多 東家恭太郎・水乃金魚
亀甲組おそめの身請け 国本はる乃・馬越ノリ子
老人と若者たち 富士琴美・水乃金魚
仲入り
夢の女 澤雪絵・佐藤貴美江
明治の快漢・作田玄輔 牛鍋屋騒動 宝井梅湯
別れ涙の花舞台 玉川こう福・水乃金魚
大新河岸の親子河童 澤孝子・佐藤貴美江
トリの「大新河岸の親子河童」は孝子さんの銚子言葉、佐藤貴美江さんが息を合わせた三味線があって初めて可能なネタで、一代限りのものという気がする。元は銚子に伝わる民話を大西信行が台本化したものだという。「おもしろい話ですからね」と客をリラックスさせながら悠々と演じた。この〆にふさわしい感じがその日の最終公演には必要なのだ。
澤雪絵さんの「夢の女」は、落語ファンんならぴんと来るとおり「夢の酒」を直したもので、これも大西信行作。落語を浪曲化した場合、サゲで舞台をすっと下りてしまうことができず、そのあとに「お話」としての構造をくっつけることになるので、そこが蛇足と感じてしまう。難しいところだ。このネタ、雪絵さんが師匠譲りの節でまことに結構に聴かせてくれるのだが、若干現代に合わなくなっている部分があって、そこが今聴くとひっかかる。義父が息子の妻に「早く子を産んでくれないとわしが(寿命が)間に合わない」と言うところや、息子に続いて同じ夢を見るために、息子の妻の膝枕で寝ようとするところ。前者はともかく、後者でいつも引いてしまう。必須の場面ではないので、大西台本の通りだとしてもここは省かれても大丈夫なのではないだろうか。
その他はいずれも何度目かに聴くネタだったが、前講・東家千春さんの「稗搗物語」だけはまったく初めて。節の展開も独特で、どんな話なんだろうと思ううちに15分が終わった。あとで千春さんご自身に教えてもらったところ、これが元の芙蓉軒麗花が演じたままの長さなのだという。今回が初演なので、いずれ自作でもっと長くしてみたいとのこと。現役では澤順子さんが演じられたことがあるそうだ。若手のこうした挑戦精神は素晴らしい。
終演後、ちょっとだけ日本浪曲協会の前を通って帰る。火曜亭が早く復活できますように。