某月某日
木馬亭七月公演七日目、千秋楽。平日にもかかわらず結構な客入りであった。七夕だが天候は悪く、夜には強風も。帰り道ですっ転んでしまい眼鏡の右レンズにひびが。風に煽られるような体重か、と言うなかれ。強風の影響は体重ではなくて体の表面積に比例するのだ。別に威張って言うことじゃない。
寛永三馬術 愛宕山梅花の誉れ 玉川奈みほ・沢村美舟
深川裸祭り 港家小そめ・玉川祐子
狸 東家一太郎・東家美
浪曲シンデレラ 玉川奈々福・沢村美舟
仲入り
悋気の火の玉 澤惠子・佐藤貴美江
出世の白餅 田辺鶴遊
陸奥間違い 玉川福助・沢村美舟
春日局 澤孝子・佐藤貴美江
やはり圧巻は「春日局」で、浪曲ながらスペクタクルの感覚があった。病床の春日局を三代将軍の家光が見舞い、過去の物語を聴くというだけの構成なのだが、局の強い信念がひしひしと伝わってきて思わず息を呑む。低音部からのこみあげるような節が素晴らしく、腹に響いた。途中に大御所・家康の駿府~江戸道中付けもありサービスも満点である。もっと古いネタかと思っていたが、大西信行が書いたのは1989年とのこと。そうか、大河ドラマが放映された年だ。澤一門からはもう一人惠子さん。落語浪曲をほぼ専門にされる演者で、今回は悋気の火の玉をかなり原形通りに。二人のタイプが違う女性が出てくる噺で、その対比が効いていていい。
「浪曲シンデレラ」は、いかに新作を古典らしく仕立て上げられるか、という観点で作られた奈々福さんのオリジナルで、継母が本来は憎まれ役のはずなのに、妙にアメリカナイズされた台詞を喋らせることでコミックリリーフになっているのが演出上の妙だと思う。その弟子の奈みほさんは「愛宕山梅花の誉れ」を15分で途中まで。このほかにもう1つ「鹿島の棒祭り」も持っているはずで、月1、2席ずつネタを増やしていっている模様。がんばってください。
個人的な収穫は福助さんの「陸奥間違い」だ。このネタ、春まで通っていた奈々福さんのガチンコ浪曲教室の課題だったのである。私も百回ぐらい繰り返し聴いたので、節回しまで全部玉川福太郎版で覚えており、その一番弟子による口演ということで非常に嬉しく聴いた。入れ事のところまで全部タイミングが一緒なんだもの。楽しいなあ。
初めて聴いたのは一太郎さんの「狸」。落語にもある狸が恩返しをしにくる話を、深川置いてけ堀などを絡めながら怪談ぽく演じる。最初、聴いたことがある話だと思い込んでいたのでしばらく違和感があった。途中でおかしいなと気が付いたのだが、聴いたことがあるのは狸じゃなくて「タニシの田三郎」だ。全然違った。
その他のお目当ては二日連続出演の小そめさんで、御年97歳の祐子さんの三味線を堪能した。啖呵の部分でもどんどん攻めてくる三味線で掛け声の気合がいいのである。貴重なご出演の機会を逃さずに聴けて本当によかった。先月は大事を取られたのか、直前で代演になったので心配していたのである。
講談はおなじみの鶴遊さん。快楽亭ブラックさんの元弟子、ブラ坊さんのところに持続化給付金が振り込まれたのはどうなんだ、廃業したのに、という枕で大笑いした。そりゃそうだよね。