某月某日
しばらく記事を書く余裕がなかったが、浅草木馬亭の九月公演の初日なので。最近は出演者を確かめずにとりあえず木馬亭まで行っているので、着いてから始めて三門柳さんがトリだと知る。テケツのところで沢村豊子さんをお見掛けする。テケツで遭遇する率の最も高い曲師だ。本日は出番なしだったので遊びに見えたらしい。
出世定九郎 三門綾・沢村美舟
鬼山紅羽織 富士綾那・伊丹秀敏
二十年目の恩返し 花渡家ちとせ・玉川みね子
無法松の一生 鳳舞衣子・伊丹秀敏
仲入り
青龍刀権次 ニセ札 玉川ぶん福・玉川みね子
村井長庵 雨夜の裏田圃 神田鯉栄
左甚五郎 千人坊主 港家小柳丸・沢村美舟
瞼の母 三門柳・伊丹秀敏
本日の収穫はなんといっても「瞼の母」であろう。さまざまな演者がかけているネタだが、三門博系統の脚本は長谷川伸が実際に聴いている原作者公認バージョンなのだとか。全部を聴き比べたわけではないので、どう違うのかそのうちにちゃんと確かめてみたい。忠太郎の切ない心情を朗々と語って無事お開きに。この他では講談だが鯉栄さんの「雨夜の裏田圃」がよかった。ふてぶてしい村井長庵は口調に師匠(神田松鯉)の姿が透けて見えて好ましい。小柳丸さんの「千人坊主」はご本人があまりかけないとおっしゃっていたが、木馬亭で聴いたことがあるような。どなたかと勘違いしているだろうか。
終演後、目黒駅まで足を延ばす。山手線に乗ったので初めて高輪ゲートウェイ駅を通過した。目黒駅の権之助坂をだらだら下りていくと、道の右側に鹿鳴館という貸しスペースの看板が見えてくる。記憶が正しければここが、立川談志が一時期席亭を務めていた目黒名人会の場所だと思うのだが。楽屋が最上階、舞台が地下にある変則的な構造なので、油断していた前座がトリの金原亭馬生のサゲに間に合わず、十代目が自分で追い出しの太鼓を叩いた、ということがあったはず。ちゃんと確かめれば書名はわかるのだが、立川談四楼『シャレのち曇り』にあった記述だと思う。
同じビルの地下で元全日本女子プロレスのミゼットレスラーが働く店があったとも記憶している。2013年に亡くなった今井良晴リングアナウンサーがそこを使って店を出す話があり、看板に予告まで出たのに急逝されて流れたはずだ。全女の事務所はごく近くなので、なんらかのつながりがあったのではないか。
そこから下るとひさしぶりの弘南堂書店。おひさしゅう。九月に入ったので古本屋廻りも少しずつ解禁していこうと思う。なにせ残暑が厳しくて、卒倒しかねないのであまり出歩かなかったのである。