某月某日
仕事を早々に終わらせて浅草木馬亭へ。ここのところ毎週複数回訪れることも多かったので、ずいぶんご無沙汰しているような感覚がある。だが、実際は1週間前に目黒のふげん社で東家一太郎さんの浪曲レッスンを受けたばかりだ。1週間で禁断症状が出るということか。浪曲成分を補充し続けないと駄目な体になっているということか。
本日の会はイエス玉川さん・玉川太福さんという、玉川一門の伯父と甥にあたる二人による「古今浪曲共演」である。一応書いておくと、イエス玉川は三代目玉川勝太郎門下、玉川太福はその弟弟子である二代目玉川福太郎門下だ。後でわかったことだが、この会を企画したのは三代目勝太郎のお孫さんだったとか。
午後六時半開演ということで他の会よりも三十分程度早い。それもあってなのか、最初に三十分ほど二人に前講の玉川奈みほさんを加えてのトークコーナーが設けられた。初めて聴く話もあって興味津々である。
トークコーナー イエス玉川・玉川太福・玉川奈みほ
阿漕が浦 玉川奈みほ・玉川みね子
不破数右衛門の芝居見物 玉川太福・玉川鈴
仲入り
国定忠治 山形屋乗り込み イエス玉川・玉川みね子
玉川一門は大岡政談の一つである「阿漕が浦」から覚え始めるのが普通なのだという。侠客ものを得意とする一門だが、最初にべらんめえ口調が入ってしまうと後から侍言葉がやれなくなるので、まずきっちりとしたお武家の話から入るのだそうだ。以上はトークコーナーで得た知識。これくらいは書いても大丈夫だろう。
しかし太福さんの場合は、なぜか師匠に「不破数右衛門の芝居見物」を勧められたのだとか。ニンに合っているという言い方があるが、粗忽者の話であって太福さんにはぴったりという印象がある。なぜこれを勧めたのか、福太郎さん存命であればお聴きしたいところだがもう叶わない。この日も熱演で大いに盛り上がった。
「山形屋」は三代目譲りのネタで、全篇を悠々と演じられた。途中で「師匠がこの節を唸ると会場からは割れんばかりの拍手が」と促すかのような一言があったかと思ったら「でも師匠が『いや、イエス、違うぞ。すぐにくる拍手は本物じゃない。本当の拍手は聞きほれて一瞬静まりかえったあとでくるものだ』」と二段落ちの指示があり、観客は操られたように大拍手。すると「別に催促されからといって拍手すりゃいいってもんじゃない」と見事に落ちをつけられた。かすれたいい感じの節に聞きほれておしまい。最後におまけのコーナーもあって、散会となった。
去年は10月だかの大型台風の前年にイエス玉川独演会として開催されたのであった。ファックスで予約を入れたので、台風のさなかにイエスさんから安否を気遣うお電話を頂戴し、大恐縮したっけ。来年も無事に開催できますように。