しばらく時間を潰した後に浅草に帰ってくる。実は夜も公演があるのだ。木馬亭を出るときにばったりお会いした沢村豊子さんに「あんた、太ちゃんの公演は聴いていかないの」と声をかけられたが、もちろん聴きますとも。時間が空き過ぎちゃうので散歩していただけです。月例の玉川太福独演会だ。ソーゾーシーが全国公演の途中ということで、本日はゲストに仲間の立川吉笑さん。前講は先日と同じ玉川奈みほさん。
寛永三馬術 愛宕山梅花の誉れ 玉川奈みほ・玉川みね子
地べたの二人 愛しのロウリュ 玉川太福・玉川鈴
一人相撲 立川吉笑
仲入り
トークコーナー
国定忠治 山形屋乗り込み 玉川太福・玉川みね子
「愛しのロウリュ」はたぶん初めて聴くが、途中でちょっとびっくりするような仕掛けがあって客席が湧いた。私は持病もあるのでサウナに入らないが、このネタは十分笑える。小道具の使い方に華があるというか。トークコーナーはソーゾーシーの話題が中心となった。本日のお客さんは東京公演にも足を運ばれた方が多かった模様である。どちらかといえば落語ファンが多いと思われる興行で、こうやって木馬亭にお客さんを連れてくる努力をされている太福さんには本当に頭が下がる。この日は姉弟子から花が贈られていた。言うまでもなく先日の浅草演芸大賞新人賞を太福さんが受賞されたことを祝ってのものだ。来月十一月三日は、その記念公演となり、初めて木馬亭で太福さんがトリをとられる。
吉笑さんの「一人相撲」は上方で相撲見物に行けず悶々とする旦那のために店の者が江戸まで走って見届けに行くという話で、報告に戻ってきた者がみな勝手な主観を交えて語るので、頭の中で取り組みの像を結ぶことができずに旦那が悶々とするのがおかしい。吉笑さんのネタは人間が頭の中で見ているものは自分だけの世界で、他人のそれと突き合わせようとすると齟齬が生まれるということを語るものが多いように思う。落語が想像させる一人芸だということに対応しているのだ。
「山形屋乗り込み」は先日イエス玉川版で聴いたばかり。伯父甥で聴き比べることができて興味深かった。本日のお客さんがそれほど浪曲マニアではないことも考慮してか、情景描写などの言葉を多く、丁寧に演じていたと思う。たっぷりと演じて二時間半の公演が終わる。外に出るともう十時で、夜の早い浅草はもうだいたい店仕舞いに向かっていた。
古本屋には行けなかった日だが、本は買った。木馬亭のガラスケースに展示してあって、いつも欲しいなあと思っていた本が実は売り物だったことが判明したのだ。芝清之『新聞に見る浪曲変遷史 明治篇・大正篇』と『東家浦太郎関東節ひとすじ 芸談・出演日誌』がそれぞれなんと千円の定価で買えた。ネット古本屋では何倍かのプレミアがついているので、これは本当にお得である。灯台下暗しとはこのことだ。ありがたやありがたや。