某月某日
木馬亭の前にちょっと寄り道を、と思って南千住の大島書房を訪ねたが、開いてなかった。日曜日お休みだったっけ。11時開店じゃなかったっけ。しかし古本屋の開閉店時刻は流動するものなのである。健在であることを確認したかったが後日を期して諦める。その代わりに浅草で地球堂書店に立ち寄った。相変わらずしっかりした値付けだが、文学や古典芸能関係が強い。ここも17時閉店だったのが、最近は16時くらいで閉めちゃうことが多くなって、中を覗く機会が減った。
でもって木馬亭十月公演の四日目である。
唐人お吉 東家千春・水乃金魚
山の名刀 富士実子・馬越ノリ子
お民の度胸 澤雪絵・佐藤貴美江
阿武松 玉川福助・水乃金魚
野狐三次 観音堂の捨て子 東家一太郎・東家美
鼠小僧次郎吉 蜆売与吉 田辺鶴遊
湯島の白梅 富士琴美・水乃金魚
春日局 澤孝子・佐藤貴美江
春日局は圧巻の出来。低音部が素晴らしくおなかの底から揺さぶられ続けた。他の演者さんと比べると、澤孝子さんはやはり啖呵の言葉遣いも違う。七五調で紡がれていく間にときおり、アクセントのようにそれを破る言葉が挟まり、観客の感情をくすぐり、鼓舞する。春日局で言えば家光の慟哭などが該当するのではないかと思う。「乳母よ」の一言が効いていた。一門の澤雪絵さんは清水次郎長伝からお民の度胸。このネタ、森の石松の最期まで描かれるのと、お民が凛としているのがいいのだ。夢の女の可愛らしい女房などもいいのだけど、お民のような女性も似合っている。
湯島の白梅は「別れろ切れろは芸者のときに言う言葉」の『婦系図』を原作とした歌謡浪曲で、もしかすると最初に聴いた琴美さんがこれだったかもしれない。魂切るような高音部が響いてこれまたたいへんに結構。孝子さんと琴美さんで低音と高音の挟み撃ちに遭った気分である。
このほか特筆すべきは千春さんの唐人お吉か。記憶違いでなければ、以前聴いたときと構成が変わっている。回想で語られていた男の身勝手な言い草が話の冒頭に来ていて、このほうが観客にはお吉の心情が伝わりやすいかもしれない。また、以前とは節が格段の成長を遂げていて手数が多くなったというか、ちょっと度肝を抜かれるような一節があった。この先があるとしたら非常に楽しみである。
終演後は別の興行に顔を出したが、いろいろと困ったことがあって早々に退散してしまう。少し反省会をして帰る。十月公演も折り返し。