某月某日
木馬亭十一月公演も無事に折り返しである。まだ書いていないが先週木曜日から毎日通ってきているので、木馬亭七日目。
馬子唄しぐれ 東家三可子・東家美
吉良の仁吉 港家小そめ・玉川祐子
春日局 澤雪絵・佐藤貴美江
坂崎出羽守の恋 鳳舞衣子・伊丹秀敏
仲入り
雷電為右衛門小田原情け相撲 東家一太郎・東家美
名医と名優 一龍斎貞友
源太しぐれ 東家三楽・伊丹秀敏
お富与三郎 稲荷堀 澤孝子・佐藤貴美江
三日目に玉川太福トリが入ったので、会長が一日譲って本日は孝子・三楽という強力な布陣。その三楽さんは「私はモタレで、後に孝子先生というお掃除番が控えてますから」と断ってから外題付けに入る。軽い読み物で交代しますという意味だろう。その言葉通り「源太しぐれ」を軽く、粋にこなす。元小唄をやられていただけあって、義太夫語りのヒロインは板についている。続く孝子さん。「私の出番を持って本日のご散会でございます」のフレーズに続き、八日に迫った愛弟子・澤雪絵さんの紀尾井小ホール独演会を紹介する。この日、三席目で雪絵さんは師匠十八番の「春日局」を初披露したのだ。八日の試運転という意味もあっただろう。節はほぼ師匠のものをそのまま受け継いでいたが、処々に雪絵さんらしさも覗かせて堂々たる舞台だった。その出来栄えに孝子さんも「春日局、いかがでしたか。よかったですよね」と顔をほころばせる。
孝子さんがかけたのは長編のお富与三郎から起承転結の承くらいに当たるだろうか「稲荷堀」(とうかんぼり、と読む)である。木更津からそれぞれ奇跡の生還を果たして江戸で再会したお富と与三郎が焼け棒杭に火がついて人目を忍ぶ仲となる。それをお富の旦那に密告した男を殺害するのである。ここから二人は坂を転げ落ちるように悪の道に走り、非業の最期を遂げる。それを暗示するかのように「赤い夕陽が血の色で」と不吉な予感を滲ませて一席読み終わる。この手のファム・ファタールものを演じさせたら、落語・講談も合わせて今の孝子さんの右に出る者はいないと思う。
この日印象的だったのは仲入り前の鳳舞衣子さんで「坂崎出羽守の恋」は山本有三作、酒井雲の持ちネタであった文芸浪曲だ。大阪落城のスペクタクルで始まり、出羽守の失意というアンチクライマックスで終わるという展開だ。坂崎が千姫の女心を知らずに独り相撲をとったがゆえの悲劇なのだが、男の愚かさを描いた読み物という意味でも珍しいのではないだろうか。