某月某日
木馬亭十一月公演六日目である。連続で通い続けて九日目。座って浪曲を聴いているだけでもけっこう疲れるものだということがだんだんわかってくる。
寛永三馬術愛宕山梅花の誉 玉川奈みほ・沢村豊子
野狐三次 彫物の由来 東家一太郎・東家美
壺坂霊験記 玉川ぶん福・沢村豊子
男の花道 浜乃一舟・東家美
仲入り
陸奥間違い 玉川奈々福・沢村豊子
後藤新平 田辺鶴遊
阿波の鳴門 三門柳・伊丹秀敏
継母の誠 東家三楽・伊丹秀敏
「陸奥間違い」を奈々福さんは福太郎師匠から「義士外伝」として終わって何故と首を捻ったとか。「おわかりの方は浪曲通」と謎を掛けて外題付に。はい、間違えられた松野陸奥守が後に大坂西奉行、松野河内守として天野屋利兵衛を取り調べるからですね。たしかに外伝。この読み物、当時の大大名が将軍家から松平姓を頂いていることを知らないと戸惑う場面がある。師匠福太郎が「伊達少将は陸奥守」と唸る箇所を「伊達少将は松平陸奥守」として理解を助けている。このへんの一工夫がありがたい。随所に啖呵、節の改良を感じる。「陸奥間違い」は昨年末から春にかけて、奈々福さんの「ガチンコ浪曲教室」のお題だった外題。そこの劣等生だった私は、実に懐かしく聴いた。「金山銀山金華山」「死は易し、生は得難し」とか、好きな文句、節がいっぱいで実に嬉しい。この日は三十分で収める必要もあって外題付けの直後から最初の浮かれ節までをナレーションでまとめる形式であった。
同じ玉川ではぶん福さんが「壺坂霊験記」。実は初めてぶん福さんでは聴いた。よくかけられているそうなのだが、なかなか巡り会わなかったのだ。前読みは奈々福さんの弟子・奈みほさんが「梅花の誉」。実にいいところでちょうど時間となって客席から溜息がもれる。素人が言うのもなんだが、確実に上手くなっているように思う。早口になるところで時々言葉の輪郭がぼやけるところがあるので、滑舌に配慮してくださるとさらに聴きやすくなるのではないかと思う。
「阿波の鳴門」は「ととさんの名は十郎兵衛、かかさんはお弓と申します」の台詞が有名な浄瑠璃由来の一席。無実の罪で国を離れたお弓が、幼いながらも気丈に巡礼として自分を探しにきた娘に出会い、素性を明かせず心惑う。母娘の情愛を美しく感じさせて柳さん圧巻であった。トリの「継母の誠」は最近では綾那さんに教えたからかあまりかけておられなかったように思う。親子の孝あり、性善説への信頼あり、努力の果ての立身出世ありと、まさに「浪曲のお手本」。気持ちよく聴いた。この二席は伊丹秀敏三味線。本日は浜乃一舟としても出演もあったから獅子奮迅の働きである。
その浜乃一舟は「男の花道」。先日の講談「名医と名優」と同内容だが人物設定がまったく違う。島田から三島までの道中付と中村座の場面で一舟ビームが炸裂し、客席が多幸感に包まれた。まったく、なんという声なのか。師匠を支える美さんの三味線もお見事。美さんはもう一席、相方の一太郎さんと「彫物の由来」を。これはもちろん一太郎さん十八番の一つ。前半で軽く笑わせて後半の親子愛で泣かせて、という構成はもちろんのこと、節がいちいち嵌ってほぼすべての箇所で拍手が起きる。全身をフルに使ってふいごのように声を出しまくる。これまた堪能した。一太郎さんと来月会をやられる鶴遊さんは評伝講談の「後藤新平」である。は先日某所で予告が出ていて聴きたかった読み物なので嬉しかった。フルバージョンもいずれどこかでぜひ。