某月某日
浅草木馬亭十一月公演も最終日。今月も七日間すべて通うことができた。
出世定九郎 三門綾・馬越ノリ子
斎藤内蔵助 天中軒景友・沢村豊子
子別れ峠 国本はる乃・馬越ノリ子
甚五郎の蟹 イエス玉川・玉川みね子
仲入り
三日の娑婆 東家琴美・伊丹秀敏
武蔵坊弁慶 一龍斎貞橘
一妙麿 澤順子・沢村豊子
瞼の母 三門柳・伊丹秀敏
前半は天中軒雲月さんに貰った読み物だという「子別れ峠」に圧倒された。かつて我が子を捨てた夫婦が戻って来る。彼らを乗せた馬車の娘こそがその子供で、三人はまだことを知らない。娘を拾って育てた親父と夫婦の対話に息詰まるようなスリルがあった。夫婦が事実を話そうとするたびに「聞きたくねえ」とそれを遮る親父。登場人物が現前しているかのようなリアリティがあり、そこからの展開、バラシの節まで言うことなし。
先日は序盤だけだった「甚五郎の蟹」は、いれごとをせずに最後まで。借金のかたに蟹の細工物をするという名人譚の一つだが、まだ名声を得る前の若き日の甚五郎である点がポイントで、朴訥だが少々変わり者というキャラクターを魅力的に演出した。作は池上勇こと二代目国本菊春、天龍三郎口演と初めに断ってからイエスさんは話に入る。
「三日の娑婆」は曲師の伊丹秀敏さんが浜乃一舟としても演じられる外題であり、私は琴美さんで聴くのは初めて。主人公が労から三日間解放されるきっかけの大火を、明暦の振袖火事と明言されたのが印象的だった。トリの「瞼の母」は師匠三門博脚色のもので、番場の忠太郎が「俺はいやだ」と母・妹の呼びかけを拒んだあとで逡巡し、「おっかさあん」と叫んだところで柝が入る。興行の〆にふさわしく重厚な一席だった。
年内は十二月にまた定期公演があるが、これは四日までしか聴けない予定。貴重な機会ゆえ大事にしよう。