翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。
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パーシヴァル・ワイルドは演劇脚本を本職とする作家で、邦訳が4作出ています。どれを読んでも外れなし、の最強作家なのですが、残念ながら『悪党どものお楽しみ』以外は現在品切れ中なのですね。気になる方はちょっと古本屋などで探してみてください。
『検死審問 —インクエスト』とその続篇『検死審問ふたたび』は、文庫なので値段もきっとお手頃でしょう。『検死審問』はかつて江戸川乱歩が「1935年以降のベスト・テン」に挙げたこともあり、古くから名作として知られた作品です。この作品は全篇が検死審問(変死事件の死因を法的に確定させるための制度)の審理録の形式をとっているのですが、プロットが見事と言うしかない。検死官を務めるリー・スローカム閣下の賢いんだか馬鹿なんだかわからない語りに翻弄されているうちに罠にかけられ、あっと驚く結末へと連行されてしまうのです。続篇『ふたたび』では、前作でスローカム閣下のマイペースぶりにカリカリきていた陪審員の1人が暴走し、審理録の乗っ取りを図るという展開があって、さらに笑えます。よくこんなこと思いつくなあ。
そして『探偵術教えます』は、通信教育で探偵になった(と思い込んだ)男が教官の制止も聞かずに事件に首をつっ込みまくり、なぜか解決に導いてしまうという素敵な連作短篇集で、これも書簡形式という珍しい作りになっています。
次回はダシール・ハメット『ガラスの鍵』ですね。また、楽しみにしております。